サイエンスとサピエンス

気になるヒト、それに気なる科学情報の寄せ集め

核分裂の発見者と日本のエニシ

 核分裂反応の発見者とはドイツの科学者オットー・ハーンだ。リーゼ・マイトナーもそうであるが、連名されるべきであろう。彼女は悲運の女性科学者として別記されるべきであろう。
 ハーンがハイゼンベルクとともに連合軍に身柄を確保された時の様子は、ハイゼンベルクの回想録『部分と全体』にでてくる。
 二人はナチの秘密兵器開発(原子爆弾)に関わったとされていたのだ。
実は、その拘束期間中にヒロシマナガサキにそれが投下されたニュースが伝わる。

 ハーンはショックのあまり自室に閉じこもって出て来なかったとハイゼンベルクは書いている。
 核分裂の発見はダイレクトには兵器化とはならなかった。それはドイツの兵器開発の歴史がそうだった。にもかかわらずハーンは自責に駆られたのは、本人の気質もあろうが、それ以外の日本とのエニシがあったためであろう。

 星基金である。第一次世界大戦後のドイツ経済は破綻の縁をさまよっていた。星製薬の創業者星一星新一の父)は無償の学術援助を行った。フリッツ・ハーバーを長とする委員会がその運営にあたった。研究のみならず生活支援を行ったそうだ。
 その恩恵を受けたのがハーンだったのだ。恩をアダで返すとまではいかずとも、自分の発見が思わぬかたちで災禍を日本人にもたらしたことに苦悩を感じたとしても不思議はない。
 星一は事業が破綻しても資金を工面してドイツに送金していたそうだ。その事情は星新一の『人民は弱し官吏は強し』に刻み込まれている。