サイエンスとサピエンス

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大地震の正の側面

 大都会に住むものとして直下型地震に怯える一人であり、東日本大震災の被災者や過去もろもろの地震の犠牲者には哀悼を捧げる。
 とは言え、天災のなくなることがない国土に永住する市民として、ネガティブな地震イメージだけを言挙げするのも業腹であります。
 地震の正の側面、積極的なところもとりあげておくべきでしょう。
 不思議な事に被災地で地震を罵るものはあまりいません。天災があっても人災に転化したり、ひそやかな諦観もありましょう。
 この弧状列島という大地は優しき母のようであり、厳しい父の如くでもあります。この厳しき父は何の役にも立たないカミナリ親父でしかないか?
家庭内暴力を振るうばかりの能なしワンマンか?
 そうとばかりは言えないのであります。

 毎年、9月になるとやってくる防災の日関東大震災を悼むと同時に大地震再来への心構えをあらたにす時です。この都市型大地震は江戸東京に幾つかの文化的遺物をもたらしています。
 隅田川花火大会?
No。確かに施餓鬼の系統ではありますが、ちょっと違う。
 名物の隅田川の架橋がそうです。上野広小路という地名も火除地もその名残り。都市公園も火除地として被災後に設置されたわけです。つまりは、破壊されたからこそ、住み良い場所に再開発が可能になったというわけです。
 このスクラップ&ビルドが都市の老朽化やスラム化を防いでいるわけです。つまりは、インフラが被災によって自然淘汰され、より良くなるのであります。
 いったん建築したものをわざわざ壊すことはなかなかに出来るものでありません。人為でなしえぬことを自然災害が代行しているということもあるのです。
 工場施設などもその刷新のターゲットになります。地震で壊れたら、より良いものに差し替えざるを得ない。それで技術革新が進むこともあるでしょう。
ひとつ事例をあげましょう。ブライアン・アーサーの指摘です。
 産業革命の発祥の地、イギリスではなぜ、後発のアメリカやドイツに生産現場を奪われたかをブライアン・アーサーはこういいます。
 イギリスの起業家たちは稼働している生産装置にあわせて堅牢な工場建屋をつくり、併せて鉄道狭軌を敷設して物流網を整備し世界の工場になった。それがコスト競争になると生産設備を入れ替え、輸送網を更新するのが大きなネックになってしまった。
 人為ではスクラップ&ビルドできなくなったわけです。

 おおよそインフラに当てはまるものは組織にも当てはまります。古い官僚的な組織は疲労して社会のお荷物になる。これを打ち壊すのは革命か偉大なる革新者がなければ出来ない。
地震がそれをやってくれる、わけではないのですが刷新や人心の一新には役立つこともあるようです。
 地震の再来の懸念は人心の頽廃を予防しますし、死者への弔慰を深め、生きる決意を賦活させることもあるでしょう。
 四季の変化も大地の鳴動もないほほ〜んな自然もいいことはいいのですが、どうもそういう場所はボンヤリものの楽園になりがちではないか、とハンチントンという偏見持ちの気象文明学者が指摘しています。

 どんなものも負の側面ばかりではないのです。

【参考資料】
 デジタル革命の論拠として有名になったサンタフェ研の賢者の主著。一応、19世紀からの技術史も踏まえての主張である。

テクノロジーとイノベーション―― 進化/生成の理論

テクノロジーとイノベーション―― 進化/生成の理論

 あまりに偏見があるので岩波書店もなかなか復刊しない問題の書。

気候と文明 (1938年) (岩波文庫)

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