サイエンスとサピエンス

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記録と国家の始まり

 魏に使いを出した邪馬台国の日本は、小さな村落共同体に分割されていたようだ。こうした小さな村落共同体、都邑(とゆう)のような社会は原始的な国家と見なせるかどうか議論が分かれる。
 それが3世紀中ごろの日本の有り様であるが、それよりはるか5000年ほどまえに中東の地、いまでいうイラクのあたりにかなり巨大な都市国家文明が栄えていた。それはシュメルもしくはメソポタミア文明として知られている。
 人類最古の文明は解読された最古の記録を残している。つまりは解読された最古の文字、ウルク文字を生み出している。
 そして「書記」という専門職が発生する。国の運営にまつわる記録を管理する職業、官僚の原型といえる。文字を記録するという特殊技能が国家を適切に運営するためには不可欠なのだ。それは国の権威をもってその被支配民を統治するための、根源となる。法律や部族間の取り決めといったことを間違いなく運用するために、国庫や土地財産といった経済的基盤を管理するためにも必須だったろう。
 邪馬台国には、それは無かったのは疑いようも無い。公的記録がないところでは、すべての交渉は一から始めなければならないし、違約が生じてもそれを公正に解決するすべが無い。

 シュメル文明の成立とその滅亡から、二つばかり推論を記録しておくこう。

1)「書記」は現在の文書、もしくはホワイトカラー的職業の起源である。現在ではその職能は多数の人びとに分散された。しかも人が介在しなくとも文書が生成・複製・伝達される「ネットワーク」が全地球を被覆している。いまや、事件と記録は同時的に進行する。「書記」は雲散霧消したのが現代であるようだ。そして、記録の価値は限りなくゼロに近づいている。
 粘土板は現代まで保存され、そのメッセージを我らに伝えている。それを活かすも殺すも現代人次第だ。

 2)シュメル文明は1000年ほどで滅んだ。主に塩害による農耕社会の基盤崩壊が原因とされる。つまり、チグリス・ユーフラテスの治水の失敗だ。秀逸な都市文明は食料を確保できずに野蛮な周辺民族に軍事的に蹂躙された。
 お隣のエジプト文明はそれとは異なる長寿文明となった。6000年ほど継続する。王朝が何回も交替するが農民たちはローマ時代までその一貫性を保持した。それは、ナイル川の氾濫が塩害を防いだおかげとされる。ヘロドトスの名言がある。

「エジプトはナイルの賜物」

 シュメルが滅びエジプトは永続した。エジプトに都市文明はなかったのも興味深い。
それを決定的にダメにしたのがアスワンハイダムだ。

シュメル文明研究の最新データを手際よくまとめた良書。

シュメル―人類最古の文明 (中公新書)

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シュメル神話の世界―粘土板に刻まれた最古のロマン (中公新書)

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土壌を守ることが文明長寿化の秘訣

土の文明史

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