量子力学の建設の立役者として、第一に指を折るとなるとハイゼンベルグは候補として外せない。
乱流理論でデビュー、量子力学の基礎理論をパウリと作り上げ、不確定性原理や磁性に応用する。原子核理論にも貢献する。量子電磁気学の基礎理論構築もパウリとの共作である。
それほどの人物でありながら、ナチドイツに彼は残留することで、仲間の物理学者たちからの信頼を完全に失った。彼自身は『部分と全体』などで母国ドイツの物理の伝統を守ろうとしただけであり、たしかに原爆開発についてはノラクラ戦術で着手せずにいる。政党としてのナチには加入しなかったため、狂信的な同僚などから迫害を受けている。たまたまハイゼンベルグの母親がヒムラーの母親と親しかったため、それをかろうじてかわしているが。
しかし、連合国は彼を非常に危険視して暗殺を手配したりしている。彼の師匠ボーアも戦中には完全にハイゼンベルグとのまっとうな会話は避けているくらいだ。ちなみに ボーアはドイツ占領下のデンマークから極秘作戦で連合国に逃避するのに成功している。
結局、ドイツ敗戦後フタを開けたら、原爆開発は全然進んでいなかったので、連合国は自分たちの開発してきた原爆の使い先を失う。
ハイゼンベルグが晩年になって精力を注いだのが、「原物質の理論」だ。素粒子の背後にある「物自体」を一挙に解明しようしようとした野心的な理論であった。盟友パウリも最初はこの理論に協力したが、途中で放棄している。ボーアはこの理論に批判的で「クレージーさが足りない」と評したけれど。
これがその基本方程式である。
この方程式の思想的な背景がある。あるべき姿の素粒子の理論はプラトンの自然哲学における多面体の理論と同じ位置づけであると彼は信じていた。世界はプラトン的なイデアの投映であり、原物質がその究極のイデアだあると考えていたのであろう。
日本でもその翻訳が『素粒子の統一場理論』として詳しく紹介されているので、野心的な方は厳密解にチャレンジしてほしい(まだ、ないはず)
ハイゼンベルグの物理的遺言がある。あの世で神に遭遇したら「素粒子」と「乱流」について質問したいと。でも、神様も答えられないかもしれないと。
- 作者: W.ハイゼンベルグ,片山泰久
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 1984
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (1件) を見る
ハイゼンベルグとナチと原爆開発についてはこれが決定版だろう。
なぜナチスは原爆製造に失敗したか―連合国が最も恐れた男・天才ハイゼンベルクの闘い〈上〉
- 作者: トマスパワーズ,Thomas Powers,鈴木主税
- 出版社/メーカー: 福武書店
- 発売日: 1994/03
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (2件) を見る