サイエンスとサピエンス

気になるヒト、それに気なる科学情報の寄せ集め

米国の衰退の証し

 我らの最大の同盟国で経済・文化的パートナーの体調は、大いなる関心事である。
 だが、さしものの超大国アメリカの内部は大きくきしみだしている。
 基軸通貨にドルはいらないと、かなり前より指摘されていきたが、今年に入ってもうその事実が覆い隠しようがない。ドルが軟調為替相場がつづく。震災後、円高が定着して、NY市場は足腰が弱く、絶えず乱高下を繰り返している。これが表面的な景気循環なのであればいいが、そうも行かないのではないか。

 株価や為替レートに限らないアメリカの変調を感じている人も多いであろう。私が嗅ぎとった、いくつか兆しを指摘しておこう。

・先進巨大プロジェクトがほとんどない=中国と中東にお株を奪われたままだ
シャトル退役で、定期的な有人宇宙旅行を先導する国ではなくなった
・メキシコ湾岸の石油・ロッキーのウランなどエネルギーの資源大国との役割が劣化
・牽引役のIT産業はサービス化している(企業はどこででも稼げる)
ドジャーズが破産した=アメリカ魂がこんな体たらく
・ハリウッド製映画の低調=アバター以降に声がしない
・有数の博物館が恐竜化石オークションを行い資金を仰いだ

 とりわけ、ドジャーズの件は痛い。経営はすぐ建てなおされるかもしれないが、こんなことがあっていいものだろうか? 日本で「巨人」が破産したようなもんである。
 メジャーリーグは大衆文化と活力の原点である。これは、アメリカ人の求心力の低下を象徴しているではないか。広い国土と多様な民族・文化の存在は強みにもなるし、弱みともなるのだ。
 個人的には支持者であるがオバマの登場すら、アメリカ人の心が折れてしまった証拠かもしれない。白人が開拓し建国し指導して世界的な大国になった、その「伝統」が崩れたのが黒人大統領の出現などという驚天動地なのだ。ローマ帝国は衰退期になるとイタリア半島から有為の人材が消え去り、帝国辺境の人材でしのぐようになった。似てはいまいか? アメリカ建国の本体であるエスタブリッシュメントから大統領になる人材が枯渇したのだ。
 また、それと思い合わされるのが、陽気さと人懐こさを基調とするアメリカ人気質は痛手を被っていて、「ヤク依存」がはびこっている。麻薬から向精神薬まで、気分までも薬に頼って体面を保っている。
 いろんな意味で、彼らの精神的支柱はボロボロなのだろう。

アメリカの抱える不可避な問題は、エネルギー効率性だと思う。
 ソローは経済成長のモデルでノーベル経済学賞を受賞した。ところが彼のモデルではGDPの推移を完全に説明できない。
 実測値とモデルの理論値の差、「ソロー残差」は1980年台以降、「残差」どころでではなく大きな差分になった。
 それを説明する要素はエネルギー消費と効率性によるものらしいことはエアーズなどにより立証されつつある。
 2000年になってからは石油価格が爆発的に増大した。
 80年代の3倍から4倍の価格になったのだ。ピークオイルと一部の論者はその原因を呼ぶ。新興国が石油を欲しだし、もう価格は下がりようがないのである。

 実はこれがアメリカ経済をボディブローのように衰弱させているのだと私は推測する。アメリカでは生産活動をすればするほど、エネルギー効率性の悪さが足を引っ張るようになったというのが、ここでの仮設である。
 単純な話、人件費よりガソリン代が安ければそんなことはないであろう。 今では事業は異なる。ある状況下では人件費はガソリン代に負けるのである。最低賃金は下がり続け、エネルギーコストは上がり続けた結果である。
 でかい国土で生産のためのインフラは、旧弊なのものしかない。とくに古い送電線や老朽化した治水設備と石油垂れ流しの輸送手段が問題だ。輸送のための鉄道網は弱体なものしかない。
 これではエアーズのモデルからもGDP成長、経済活動の活性化には致命的な足かせとなると推察するのだ。つまり、古いインフラがアメリカの活力を血吸ビルのように吸いとるのだ。


 その他にも、医療制度の効率の悪さ、いまだに主要移動手段はエアラインとマイカーだけ、自動車産業が形骸化し製造業(海のものとも山のものともつかないテスラモーターズ、復調したフォードを考慮してもだ)が消え失せたなどなど。
 

 世界有数の大学・研究機関をかかえ、圧倒的な軍事力をもち、外交的主導権を保有する状態には変化はない。だからどうだ。アテナイだって経済力や軍事力を失って三流国になってからも学芸の中心地だったし、古代ローマは衰退期に入ると軍事力だけが異常に肥大した。

 既に60年代にフェルナン・ブローデルに「過去が重荷になりはじめている」と指摘されたアメリカは大いなる転機を迎えようとしている。

アメリカ帝国の衰亡

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