サイエンスとサピエンス

気になるヒト、それに気なる科学情報の寄せ集め

アメリカ医療の問題と吸血鬼

 昨年、ようやく国民皆保険制度がアメリカに導入された。遅きに失したと言いながら、ヨカッタヨカッタとオバマ政権を褒めておきます。

 自由競争原理で動いていたアメリカ医療の悲惨さは、いくつかのルポやドミュメンタリーで知っていた。普通の人々は医療保険がたよりなのに、企業の保障と収入がないと医療保険に加入できない。保険の条項に違反すると保険金もまともに払ってもらえない。
 このBSドキュメンタリーで伝えるように、そうした人びとが4700万人もいた。
http://ameblo.jp/kirimarukun/entry-10144255205.html

 それは低所得者層のハナシだろうと思うのは早計である。
 中間層とても安閑としていられない事情を伝えるのは、岩波新書のロングセラーである『ルポ貧困大国アメリカ』の一章「一度の病気で貧困層に転落する人びと」である。自動車保険と同じで一度でも大病すると費用がいっそう跳ね上がる。


 加えて人びとを苦しめているのは病院の営利化である。
 アメリカでは、病院が営利企業であるため、利ざやを稼ぐことに執心である。
儲けるために、美容外科、肥満外科、アンチエイジングの施療など裕福層へのサービスに注力することになる。お産も例外ではない。必要もないのに手術によるお産を医師が勧めるため、自然分娩率が低いのだ。その割には、先進国で乳幼児死亡率が高いのだ。
 90年代に導入された「マネジドケア」も失敗に終わったとされる。「より安価で良質な医療を」提供する目的のこの政策は、医療知識豊かな保険会社に個人の医療を委ねるものだった。自動車保険と同じ原理だ。保険会社が指定する病院で治療をうけさせることで安くできるだろうというものだ。
ところが、医師の李啓充氏が指摘しているように「銭勘定で患者を「廃車処分」」というケースが出ている。ブラックユーモアだね。
 その極めつけは医療の「バンパイア効果」である。サービスの質を落として安い費用で医療を済ませて、患者の回復を二の次にして利ざやを荒稼ぎするのである。利益のために病人の生き血をむさぼりつくすのである。

 アメリカのテレビ、小説や映画でバンパイアものが人気なのは、いたるところで人びとが吸血鬼(バンパイア)の実在を感じているからなのだろうか?


【参考】アメリカ医療がオカシクなっているのを示したデータは「社会図録」にある
1)医療費の効果についての平均寿命との相関
 アメリカ人の一人あたりの医療費は日本の三倍近い。

2)図録高齢化とともに高まる医療費(各国比較)
 GDPに占める医療費比率はさほど高齢化していないアメリカが先進国中一番、それも呆れるほど高い。GDPの17%が医療費なのだ。年齢とは関わりなく高い医療を受けさせられているのだろうか?


 このデータを眺めているとアメリカ人がとても気の毒に思えてくる。彼は健康維持と直接に結びつかない高度な医療を知らず知らずに受けさせられているようにしか思えない。消費大国で医療先進国、世界中の人が憧れていた豊かな国だったはずのアメリカ。いったい、そのアメリカはどうなってしまったのであろう。


市場原理が医療を亡ぼす―アメリカの失敗

市場原理が医療を亡ぼす―アメリカの失敗

米国の医療現場を知る医師によるルポです。

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

明日はわが身ですよ、日本も。