サイエンスとサピエンス

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主要国の鉄道力を比較する

 前のブログ「交通網のスケーリングによる国家比較」に引き続き主要国(日本、アメリカ合衆国、中国、ドイツ、イギリス、韓国)の鉄道力をより詳細に比較してみよう。
 ここでも国勢スケーリングにより無次元化した指標で比較します。

 国勢スケーリングとは国の地理的な長さを割り出し、鉄道総延長をその長さで割るという考え方であります。
地理的な長さとはその国の空間的スケールを代表する「距離」です。ここでは陸土の面積の平方根です。すなわち、国土と同じ面積の正方形と考えるのであります。
前回の結果を表示します。
 「規格化された鉄道総延長」とは、国土をどれだけ鉄道網がくまなくカバーしているかを表す指標=鉄道稠密度です。

 この表で比較するかぎり、日本の鉄道網は国土の大きさに対して、ドイツに遅れを取り、アメリカにすら劣っているように見えます。
 しかし、営業トンキロという鉄路の利用頻度と量がこの比較には欠落しているのです。

 旅客と貨物の営業トンキロが統計局ホームページにあります。それを主要国に関して引きだして利用します。2010年にまとめられた最新のデータです。

 この統計量があれば、どれだけ輸送が効率的かを比較できると考えます。海運をのぞけば、自動車や航空輸送よりも鉄道のエネルギー効率が勝るからです。
 国における輸送効率の高さが今後の国家競争力を語る重要なファクターだと信じています。

 さて、重さ(トン)がここで現れます。よって、重さについての国勢を代表する量を考慮しないとスケーリングできません。
やや恣意的となりますが、国民の平均体重を50キログラムとして、人口×平均体重で
重さをスケーリングすることとします。世界の人の平均体重などという統計はないので
老若男女みんなが50キログラムとしておきます。
 国民全員の体重あたりの鉄道輸送の利用の比率と量を比較した指標という意味になります。
 詳しく言えば、「旅客輸送効率」はどれほど国民を運送しているかという効率性に関わる指標であります。頻繁に移動する国民活動性の現れであります。「貨物輸送効率」はそれぞれの国民に届けられる貨物がどれだけ鉄道に依存し効率的に運ばれているかの関連指標であると解釈できます。
 旅客輸送効率=旅客キロ/鉄道総延長/人口
 貨物輸送効率=貨物トンキロ/鉄道総延長/(人口×平均体重)
 これらは無次元数です。高いほど鉄道でのヒト移送の利用頻度が高いことになります。
 貨物についても同様です。体重で割っているのに違和感があるでしょうが、ヒトの成長や健康維持のために物資やそれ自体の移動が為されていると考えてください。

 この数値より、日本の鉄道がどれほどヒトの移動を担っているかが鮮明になります。なんとドイツの三倍です。つまり、世界で最良の移動効率性を実現していることになります(と断言していいでしょうね)
 検証が必要でありますが、アメリカ合衆国の衰退の一端がこの非効率性「0.01」にあると推測しています。エアラインと自動車がヒトの移動を担うアメリカの運輸は、エネルギー単価が右肩上がりの時代には、いかにも前時代的です。犯罪的と言ってもよいくらい環境負荷が高いのです。前世紀のお荷物を背負って青息吐息なのです。
 東海岸と西海岸が地理的に離れている=海運的にも貨物的にも懸絶している地勢的現実はやがて国運を左右すると予告しておきます。

 反面、日本は貨物の移送に関しては最低レベルにあります。トラックと海運が日本では大きな役割を果たしているのでしょうが、エネルギー効率からするともう少し鉄道にシフトすべきだと感じます。それを阻害するのは「鉄道稠密度」すなわち、
 鉄道稠密度=鉄道総延長÷国土長さ
 が低いことです。国土を覆うネットのカバー率がアメリカ以下であるのです。ドイツはバランスがとれていると言えます(おそらくは、海運が弱いのを鉄道で補っていると想像しています) 
 廃線を蘇らせ経済効率性以外の観点で路線を維持すべきだと唱えたいところであります。


 大国であるが故に効率性が高いとは言えず、神経網にあたる情報通信網とエネルギーの供給の電力網と物流である道路鉄道海運のヒトとモノの物流網の効率性が、国家の生き残りの大きなファクターとなるのだと思います。適度に小さく機敏な国が生き残るのです。

 以上はほんの一例ですが、資源利用とエネルギー消費の効率性という観点で国家競争力を視覚化し、管理してゆくのことが必須なのではないかと私は考えています。