サイエンスとサピエンス

気になるヒト、それに気なる科学情報の寄せ集め

ニーチェとボルツマン

 哲学者と物理学者の二人。どこでつながるのかというと「永劫回帰」つながりです。
生半可な知識をひろうしておきます。
 ニーチェの学説の一つに「世界はふたたび同じ状態になる=永劫回帰」という風変わりな主張があります。平たく言えば、「いまここにいるぼくは、遙か永劫のおおむかしにも同じ今を生きたことがある」という直観的な宣言なのです。

 実はボルツマンも同じような問題に「分子運動論」もしくは熱力学第二法則を説明よしようとする大それた試みでブツカリました。
なぜ、大それた試みかというとニュートン力学という時間対称(過去も未来も区別がない)法則と統計学的な前提から、エントロピーという時間非対称な量を導出しようとしたからです。ニーチェと違った意味で狂気と天才は紙一重的な才幹をもつボルツマンは
エルゴード仮説にいきつきます。

 これをまた平たく言えば、「分子運動の状態は十分時間が経過すれば元の状態になる、もしくは限りなく近づく」という仮説です。なんとなく、「永劫回帰」を予感させる内容ではありませんか!
 宇宙全体を分子の運動状態とみなし、相互作用は衝突だけとします。このエルゴード仮説をいれてやるとエントロピーの法則も説明できるというのが、ボルツマンの学説でありました。
しかも宇宙の確率的状態なるものを考え、圧倒的な確率でエントロピーは小さい方の状態にあり、それが増大する確率が高くなるとしています。それがニュートン力学と無矛盾に時間の非対称性を解くやり方でありました。それが偉大なるH定理です。
なぜか、先端素粒子論よりH定理のほうが、はるかに精神的に偉大さを感じるのですね。
 ある研究によるとニーチェ永劫回帰説を証明しようと自然科学の勉強に着手したこともあったといいます。ボルツマンのことを知っていたのでしょうか?

 20世紀末に二人はドイツとオーストリアという同じ時代精神を生きてます。永遠に繰り返す宇宙はニーチェにはニヒリズムの根本原因と思えました。ボルツマンはショーペンハウアーの教説に影響を受けていたといいます。ショーペンハウアーニーチェの思想的な師匠でもありました。
 日本人である自分には無限に回帰する宇宙という理念はピンと来ないうえに、それがニヒリズムとなるのも理解しがたいですが、無限に同じ単純作業をさせられる労働者のような気分なのでしょうね。



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【参考文献】ニーチェエルゴード仮説のお話しはこの本が元ネタです。

時間と人間 (自然選書)

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