サイエンスとサピエンス

気になるヒト、それに気なる科学情報の寄せ集め

ブッシュと巨大科学への道行き

 第二次世界大戦は科学の進歩の道筋を大きく変えた。中央政府が科学に投資をし管理をするようになった。そのキーパーソンはヴァニーヴァー・ブッシュである。
 アメリカ政府は第二次世界大戦中に巨大な技術開発投資を行い、戦争を勝利に導いたとされる。マイクロ波レーダー、近接信管、原子爆弾などだ。そのプロジェクト管理を司ったのがブッシュであった。
 戦後、ブッシュはトルーマン大統領から科学への連邦政府の関わり方への諮問を受ける。
 その報告書が『科学 無限のフロンティア』(1945)である。タイトルはカッコいい。

 日本を始め多くの国にとって戦勝国アメリカの科学統治方式が規範となる。科学の発展の独立性や自律性はその時点で、大きな軌道修正を受けたわけだ。
 今やそれが常識となっている。
 ある意味、自然科学は巨大な資金を前提とするような発展をするようになる。これを科学の世俗化といってもいいのではないか?
 科学は国家のため、イデオロギーのため、国家競争力もしくは軍事力のため、経済貢献のため、国民生活のためという但し書きで支援を受けられる。アメリカが先導してみせたように、巨大な設備と装置や先端的な機器、それに調査研究が支援の前提となってくるのだ。
 成功事例に倣えというわけだ。
 それはレイリー卿やプランクの研究とは異なる形態のサイエンス、つまり、個性的で地道、小規模で長期的な科学研究とは方向が違うサイエンスを肥大させたというべきだろう。
 21世紀の先端科学やテクノロジはほぼ巨大なシステムに裏打ちされた集団研究体制と同義になってしまった。素粒子実験や宇宙開発、ゲノム解読はその代表だろう。原子力もその一つかもしれない。

 こうした科学の世俗化には、どこかに不協和音もしくは忘れ物があるような気がしてならない。そもそも戦争が科学のありようを変質させていったあたりが、オカシイ。


 上記のブッシュの代表作はフリーで読めるようになった。
ブッシュ『科学 無限のフロンティア』(原著英語版)pdf

科学の社会史〈上〉戦争と科学 (岩波現代文庫)

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科学の社会史―ルネサンスから20世紀まで

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