サイエンスとサピエンス

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熱力学第三法則を読み解く

 熱力学の法則は物理学の法則のなかでは知名度が高い。エントロピー増大の法則=熱力学第二法則などは、ニュートン力学の三法則よりも知れわたっているだろう。
第一法則はエネルギー保存則なので、女子高生ですら暗唱できるのではないだろうか。
 順番にいこう。
 第ゼロ法則というのもあるが、これは熱平衡状態が存在するという地味な内容で専門家が好んで引用したがる知識だ。
 第一法則は第一種の永久機関が存在しないのと同義とされ、同様に第二法則は第二種の永久機関が存在しないとも表現される。いずれも「何かが存在しない」という言明になるのは珍しい。
さて、本題だ。
 第三法則は、別名ネルンストの定理といもいうが、これは絶対零度に到達し得ないと表現される。あるいは絶対零度ではエントロピーがゼロに近づくとも言える。

 これに原子論を入れ込むとどうなるかを考えよう。
第一法則であるエネルギー保存則はニュートン力学から自然に理解できる。
第二法則はボルツマンの天才をもって証明された S =k Log W で語るならば、
位相空間で原子の取りうる状態数Wの対数に比例すると見なせる。

 第三法則はどうなるだろう?
 エントロピーがゼロとなりえない、すなわちW=1となりえないと解釈するのだろうか?
 もう少し平たくいうと、原子の運動は有限回の断熱操作では除去できないことに等価ではないかと思われる。どのような操作によっても、運動は原子から除去できないのだ。
 もし、その表現が当たらずとも遠からずであるなら、こう考えることもできるかもしれない。
 ここで、熱力学第三法則は原子論を前提とはしていない「原理」とするならば、素粒子の集団についても適用できるはずだ。そして、現に素粒子のゼロ点振動という現象がある。つまり、素粒子の挙動をもスコープに入れた法則ということになりはしまいか?

 第二法則もボルツマンの定理、すなわち分子運動論と統計的扱いによって、微視的な原子モデルに還元されたとされている。あるいはギッブスの統計力学により解明されたという歴史に決着している。だが、それはエントロピーというマクロ変数をうまく解き明かす有効な考え方であって、必ずしも分子や原子の運動に還元しなくともいいという立場もあり得るのではないか?
 熱(機関)の分析を通じて生まれた第一法則と第二法則はブラックホールでも有効だったりする。つまり、量子力学や相対論並みの独立した「原理」なのかもしれない。第一法則はそう言っても許してくれる。
第二法則はギッブス=ボルツマン的解釈が正統派に居座っている。

 以上を通じて別な側面が浮かび出た。熱力学の3つの法則は永久機関の非在や熱的操作についての言明である。熱という「もの」の取り扱いについての規則なのだ。熱平衡という状態を取り決め、その取り扱いについてのマニュアルというべきであろうか?

万物を駆動する四つの法則―科学の基本、熱力学を究める

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テル・ハールの古風な教科書は熱力学の分子運動力学の解釈をきちんと伝えてくれている。

熱統計学―物性の統計的な調べ方 (1960年)

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