精神疾患のような原因が特定困難な病は社会の好ましからざる変化や要因が影響している可能性が高い。
とくに世界的に増加傾向にあるうつ病。この原因はいまだに特定できていない。
そもそも、一つの病であるとすることもなかなかに難しいようだ。
腫瘍マーカーがガンの診断に使われているが、精神疾患にはこの手のバイオマーカーはほとんど存在しない。特定の物質が原因となるようなケースはアル中などの薬物中毒くらいか? うつ病の生物学的根拠を特定することは成功していないし、今後ともその見込みは薄いだろう。いまのところ、疫学調査がその対策の手段だろう。
うつ病が精神科医の教科書に記載されてから100年以上たつ。確かに向精神薬の登場で30年ほどまえに化学療法が有望視された時期はあった。だが、寛解率はこの50年ほとんど上昇していないと専門家は指摘している。
なので、根拠薄弱ながら、現代社会における精神の危機を考慮して、かなり跳躍した仮説を考えてみたい。この「精神の危機」は思想家や賢者や学者がここ100年くらい持続的に警告を発し続けている。なので、今この時代や時期、うつ病と因果関係があるわけではない。それにしても、近代人の憂鬱は、かつてはいくぶんなりとも紛させる手段があった。密なF2Fコミュニケーションなどがいい例だろう。
ここからが、この企投的論議の始まりだ。
現代人のこころは微弱で感知しえない社会的な阻害因子にさらされている、とみなしていいのではないか?
社会の複雑さ、情報とノイズへの暴露、機械化と自動化、コミュニティ劣化が進行する、そうした微弱な阻害因子に絶え間なく、さらされているのではないか?
客観性をもって検証しようもない臆断だというのも事実だが、ノーマルの科学的検証は実現できず、役に立たないのも事実だ。
ここで企投的な仮説というやつを提起しておく。
これは、つまり、外部からの情報は自己の能動作用につながるものとそうでない
ものに大別されるが、その切断機能の不全により「実存的眩暈」を起こすという説だ。
自我の責めという罪悪感におちこむのだ。
うーん、だから、どうよ?! と言われそうだ。
うつ病はなによりも情報処理的な病だといいたいのだ(思弁的だけれども)
うつ状態はMaxwellのDemonの眩暈と似ている。分子熱力学におけるMaxwellのDemonはご存じのように、二つの部屋の分子運動の監視者である。彼はシャッターを開け閉めするだけで、熱力学第2法則を破ることができる。それはしかしDemon自身の熱状態を劣化させる。自分はこの「Demonの状態=うつ病」と言いたいのだ。
敢えて極論するならば、精神疾患の病因論は、脳内の生化学的異常や遺伝子欠損、あるいは身体的ストレス、フロイト理論などがある。でも、うつ病はどれにもあてはまりそうにない、のだ。だとすれば、別種の病因カテゴリとして、情報理論を持ち込み、
情報処理の失敗による無限自己ループみたいなものもあってもいいんじゃないかということだ。
【参考文献】
20世紀の精神医学は特定の疾患については無力だったという反省から、下記のチャレンジを始めた。計算論といっているのはニューラルネットワークパラダイムだと思えばいい。