サイエンスとサピエンス

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技術者倫理とルメジャー技師

 技術倫理は最近発展した学問だろう。自分が学舎におる頃には、ことばすら聞いたことがなかったものだ。
 標準的な教科書としてはウィットベックのものがある。その中で登場する顕著な事例が、ウィリアム・ルメジャー技師のエピソードである。
 シティコープ・タワーは1978年竣工した59階建ての高層ビルだ。その構造設計担当がウィリアム・ルメジャーだった。
 ある条件のために、このビルはかなりユニークな形状とならざるえなかったのである。ルメジャーはニューヨークの規制に従って強度に問題がないことを確認したが、完成後しばらくすると斜めからの強風に対して問題があることをみつけてしまったのだ。ニューヨークを襲う16年に一度のハリケーンにも耐えられないかもしれないのだ。

 その後のストーリーは技術倫理の教科書にあるように、誠実さは報われるという、ハッピーエンドである。危険にさらされた10万人の命が救われたのだ。偉人の教訓話にあるように清く正しく、真面目さは良いことだという典型だ。
 だけれども、正義が報われるというハリウッド風のサクセスストーリーと言えなくもない。こうした伝説が打ちたてられて初めて、技術者倫理あるいは製造物責任というのが定着するというのも分かる。
 自分は、これが「倫理」なのだろうかという疑いが兆すのを止められない。16年に一度のハリケーンにも耐えられる、そんな程度なのだ。
 マンハッタン島の岩盤の強固さに依存し、日夜の温度差がたかだか数百年の統計内に収まる、そんな程度の59階高層ビルの設計信頼性というのは、倫理の問題というのは余りに狭い範囲での安全さを提供している思うのだ。たかだかエンジニアは計算に忠実であれという教訓ばなしでしかないのではないか?
 明確にいうと、巨大な人造物は設計倫理などで十分に安全さが保証できるシロモノではないという感覚が抜けないのだ。福島第一原発事故は設計者の倫理では落ち度がないものだったのだ。しかし、自然は甘くない。
 巨大システムの弱さを陥落させずにおかないのが自然なのだと観念せよと自分は釘をさしておきたい。


 実話としての映像がこれだ。ルメジャー氏も登場する。

 この定評ある本の上巻に取り上げられている。

技術倫理〈1〉

技術倫理〈1〉

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のロケーションだ。


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