サイエンスとサピエンス

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ミラー・ニューロンと模倣の社会学

 脳科学の最大の発見の一つは「ミラー・ニューロン」の発見である。他者の身体に関する脳の活性部位が同定されたと単純化できよう。
他者の動きを見て、まるで自己の身体が活動するかのように活動電位が高まる神経群があるのだ。
「ミラー」とは自己を写す鏡の意味で、自他ともに身体の動きを反映するニューロンというほどの意味だという。

 さて、ミラー・ニューロンの紹介本を読んで気がつくのは、ドーキンスの「ミーム」への言及だ。
しかし、その前にガブリエル・タルドの「模倣の法則」について触れないのは片手落ちというべきではないのか?
 タルドの模倣の法則が現象論であるなら、ミームだってただの概念だ。模倣を還元論的に言えばミームとなる。

 タルドは19世紀のフランス人であり、デュルケームと同時代人である。後者は社会学の傑物として名が知られているが、タルドについては半ば忘れられている状態である。

 流行は模倣であるのは、マーケティングの基礎になっているし、自殺や犯罪も報道などにより続発する傾向があるので模倣の影響は大であろう。
ミームもそうだが、タルドの模倣もかなり曖昧さを含む。それがどのような経路、メディアを介して伝染するかについては何も述べていはいない。
 ミームは遺伝子に倣って自己増殖性を情報に植えつけただけあるし、「模倣」は結果だけの理論でしかない。それらの欠如を補うのはミラー・ニューロンであるのかもしれない。
 とくに、ミラー・ニューロンが強調するのは「身体」の視覚像の重要性だ。単なる伝聞や活字よりは、身体映像を組み込んだ情報伝達こそが、相手の脳内にメッセージを届ける力があることを言っている。
 映画やTV映像やコミックなど身体情報を見える化するのがミラー・ニューロンの使い道というわけである。
 他人のモノマネをするのが、ミーム経由なのかミラーニューロン経由なのか、それは比較の問題ではない。しかし、他人の行為をモノマネするならばミラーニューロンが活動して自分に当てはめようとするのだろう。言葉を経由してモノマネするならばミーム的なものなのかもしれない。ミームの方が記号論的である。

 研究者の食事を見たチンパンジーニューロン活動から発見したという都市伝説は愉快である

ミラーニューロンの発見―「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

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タルド社会学への招待―模倣・犯罪・メディア (早稲田社会学ブックレット―現代社会学のトピックス 4)

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