エリザベス・コルバートの『6度目の大絶滅』(NHK出版)を読んで感じたことを書き置く。
生物学の流れを「種」をどのように把握してその存続を評価したかで見直すことができる。
始まりはキュビエだ。彼の業績の再評価が重要である。通常の生物学の歴史、とくに進化論の文脈ではキュビエは「大洪水による絶滅」により古生物の化石を解釈したというかたちで語られる。つまり、旧約聖書の復古主義者のように説明される。
だが、種が恒常的に保たれるというアリストテレス以来の常識を打ち破る点では革新的だったわけだ。キュビエまでは生物の種が地表から消え去るなんとことは誰も考えもしなかったのだ。
社会生物学というE.O.ウィルソンが貢献した分野も「種の多様性」を見積もるという観点で語られる。なかでも興味深いのは面積・種数の法則性だろう。
生存可能な面積が狭ければその境界内での生存可能な種数は減少する。
大洋の孤島で観測されたこの法則はいまや人類が生み出した「孤島」、
先進国の自然公園やアマゾンの開発などでその正しさが証明される。
それを逆手に取るのが、「新パンゲア大陸」という生物学者たちに囁かれる「仮想の大陸」だ。巨大な面積でだが、どこでも一様な環境は種の多様性を激減させる。
グローバル化による種の越境、外来種による在来種の駆逐を指すのに新パンゲアが持ち出される。
新パンゲアとは、よく出来た喩えではないか。
過去最大級の種の消滅はいわゆるPT境界で起きた。この時、世界の大陸は分離以前の「パンゲア」であったことを念頭においているのは、いうまでもあるまい。2億五千万年前の一つの巨大大陸しかなかった時代だ。
だが、PT境界での大絶滅の原因は特定されていないことは指摘しておこう。
原因がおおむね分かっているのは、最近の絶滅である6500万年前のKT境界の出来事だ。つまり、アルヴァレス親子が提唱した隕石衝突による環境大変動説だ。その規模や衝突場所まで分かっている。ユカタン半島のチクシュルブ・クレーターだ。直径10キロの隕石が地表の恐竜を滅ぼしたのはほぼ定説となった。
現代、それと異なるタイプの6番目の大絶滅が起きている。原因はホモ・サピエンスだ。
キュビエが証明したように産業革命のはるか以前から人類による種の絶滅は始まっていた。西洋文明はそれを加速したに過ぎない。新大陸でもコロンブス以前から原住民族により大型哺乳類は絶滅に追いやられていた。
これを言い換えると、西洋文明から生じた現代文明は種の消失を可視化/観測できるほど目覚ましい事件に拡大した。それ以前の文明には「種」という概念もなく、いなくなってしまった動物たちはどこかよその世界に去っていっただけだと昔の人々は漠然と考えたのだろう。
ガラパゴスのゾウガメ「一人ぼっちのジョージ」のように最期を看取られることもないし、世界中のサンゴが孫の世代(2050年頃)に消失するなどという予測なども立てられなかった。
また、スマトラサイのような世界各国での保存運動もこの文明だから出来るのだ。それもむなしく終わると識者は思っているのだが。
コルバートが引用する「サバイバルゲームのルール」を引き写すのは有意義だろう。
種を何百万年にわたって有利にして形質が、ある変化を境に致命的になる
人類への警鐘というには遅すぎる指摘なのかもしれない。
本ブログも元ネタ。コルバートの名前はかの古生物学者の親戚である可能性を示唆する。
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定量的であるがもう少し癖のある絶滅の取扱はこの本だ
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社会生態学の専門書ではこちらが面白い。面積・種の法則はここにある。
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エルトンの侵略の生態学も過去に出ていたが絶滅している模様(新版があるようだ)
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