サイエンスとサピエンス

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イスラム国とエボラ出血熱の共通性

 イスラム過激派から生まれたイスラム国(ISIS)と強力な致死率のエピデミックであるエボラ出血熱は2014年にどちらも出現し猛威をふるい始めている。その共通性はかなりの根深いものがある。

 1)周縁から発生した。ISISの勢力範囲はイラクとシリアの政治的に混迷しているイスラム系の土地にある。エボラ出血熱ギニアシエラレオネおよびリベリアにまたがる西アフリカ地区で発生した。

 2)「帝国」の伸張に伴い発生し、「帝国」に対する撹乱因子である。「帝国」とはネグリ・ハートの象徴化されたグローバリゼーションというべきものである。
 ISISはイラクとシリアを基盤としている。両国とも混乱の最中にある国である。イラクは2002年に始まるイラク戦争フセイン亡き後の政情不安と宗教対立の渦中にある。シリアにおいても2010年に始まるジャスミン革命の波をもろに受けた民主化運動とそれを圧砕しようとするアサド政権との抗争の最中にある。
 エボラ出血熱熱帯雨林の風土病から生じたとされる。閉じた土地の風土病が「活躍」の機会を得たのは、開発の進行と交流によってである。
 これは「近代世界システム」の立場からも同じだ。

 3)感染力の高さ。「帝国」は総力を上げて両者を制圧しようとしている。それに対向するのは感染力の高さだ。「繋がり」を経由して人々に感染してゆく。それを一箇所に閉じめることは至難だ。SNSYouTubeに感化された先進国の若年層はISISに志願する。発達した交通網/エアラインによって保菌者はウイルス感染機会を格段に増やすことになる。なによりも学校で感染が広がるのだ。
 若者層は先進国において、概ね行き場を喪失しつつある。高い失業率や借金の増加などでISISへの誘導因子に事欠かない。既存の社会統治の仕組みは機能不全を起こしつつある。
 エボラ出血熱エマージング・ウィルスであり、それに対する適切な看護や処方箋はない。
 つまりは、両者とも決定的な「完治の手段」は、まだ、ない。

 4)恐怖の支配。ISISは己の「正当性」に基づき、テロ実行を最大の統治と宣伝の手段としている。ジハードのためのジハードである。もたらすものは「死」と「恐怖」である。エボラ出血熱も同様だ。

 5)感染を国境で食い止められない。日本ではSARS流行のおりにも入管で検出して検疫にかけようようとしたが、無駄であった。強力な伝染病はやすやすと境界を乗り越える。同様にISISへの入信者は日本のような孤島であっても妨げることができない。隔離したり水際で食い止めるのは無効だ。

 とくに、1)と2)は、「中心」に対する「周縁」からの挑戦であると要約できるだろう。確立した支配システムに対して、その権能の隙間をついてシステムを破壊する動きがISISとエボラ出血熱であるといえよう。


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