サイエンスとサピエンス

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日本人のイグ・ノーベル賞

 あまり認知されていない受賞例から書きはじめる。
 岡村化石研究所を主催する岡村長之助氏は1996年度のイグ・ノーベル生物多様性を受賞した。残念ながら本人はもはや故人となったようで、イグ・ノーベル賞委員会は当人と接触できなかった。残念なことである。
 岡村氏は岐阜県の精神病院の院長でありながら、化石研究を余技としていた。彼が同賞授与されるのにはアール・スパマーという岡村長之助研究の第一人者の力による。
『ユーモア科学研究ジャーナル』の1995年の論文が、岡村の「ミニ生物」研究を世界中に知らしめる源泉となった。
ミニアヒル北上山地の化石に見出したのが、岡村の研究のきっかけである。その体長は9.2mmと指先ていどの大きさであった。これ以降、岡村は微小化石に目覚め、ゴリラ、ラクダ、犬、シロクマなどを次々と発見することになる。

 『ミニ原人』の発見なくしては岡村の業績は語れない。

長岩ミニ原人の形状は現代人と同じだが、身長は現代人の1/350である

 ミニ原人は文明をもっていたに相違なく、最古の金属器までも岡村は発見リストに追加している。

 この見立てによる化石発見は伝統的な日本的感性といえる。天目茶碗のいびつな模様に意味=ワビサビを見出す日本人の不思議さを象徴している受賞であると指摘しておこう。

 犬語翻訳機「バウリンガル」と「兼六園銅像が鳩に人気がない理由の化学的考察」、それに「鳩にピカソとモネの識別を訓練した研究」も「人と動物」の関係が深い日本ならではの業績であると考える。
バウリンガル」はユーモア玩具であるからして、同列に論じることはできないかもしれない。しかし、このような異種間コミュケーションを本気で考えるというのは「草木国土悉皆成仏」のシンパシーがあるからではないだろうか。

「鳩にピカソとモネの識別を訓練した研究」は1995年のイグ・ノーベル心理学賞
犬語翻訳機「バウリンガル」は2002年のイグ・ノーベル平和賞
兼六園銅像が鳩に人気がない理由の化学的考察」は2003年のイグ・ノーベル化学賞
をそれぞれ受賞している。
 動物との情緒的交流が感じられる研究が多い。文化人類学者の指摘では西洋文化より人と動物の距離が短いというのが日本文化の特徴とされている。


 そもそも最初にイグ・ノーベル賞を受賞したのは資生堂研究所で1992年のことである。1991年に創設されて2年めに栄冠を勝ち得たのは素晴らしい。それも医学賞だ。
「足の臭いの原因となる混合物の解明」と題する研究で、「自分の足が臭いと思っている人の足は臭く、そうではない人の足はそうではない」という指摘は独創的であった。遺憾ながら授賞式に研究員が出席することはなかった。
 清潔さを求める神道の国にふさわしい研究テーマであるといわれている。

 カラオケでイグ・ノーベル平和賞を授与されたのが井上大佑である。2004年の彼の授賞式は会場も一体となって空前の盛り上がりだったと伝えられている。なにしろ全員でカラオケを実演したのであるから。受賞理由は 「カラオケを発明し、人々に互いに寛容になる新しい手段を提供した」ためとされる。和を尊ぶお国柄というわけであろう。

 イグ・ノーベル賞は普遍的な真理の追求に対する賞賛と名誉というよりは、よもやそんな発想で科学的な探求をするとはいやはや..という半ば呆れ半ば驚嘆が入り混じった人間味のある賞賛であると思う。そうなると民族性とか文化拘束性が露わになる。

 思うに、国民の感性や文化的伝統が科学研究に映し出されるというのが周縁科学の特徴なのであろう。

【参考文献】

イグ・ノーベル賞 世にも奇妙な大研究に捧ぐ! (講談社+α文庫)

イグ・ノーベル賞 世にも奇妙な大研究に捧ぐ! (講談社+α文庫)

もっと!イグ・ノーベル賞

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