サイエンスとサピエンス

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主流派経済学の不都合な真実 近代世界システム論との関連性

 はじめにノーベル経済学賞の国別受賞者数の比率をご覧いただきたい。

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 以前から不思議に思っていたが、英米圏の経済学者に対するこの偏り(7割以上だ)は何に由来するだろうかと。アメリカ合衆国だけで59人に上る。イギリスは9人だ。

 ノーベル経済学賞は北欧の銀行が出資して創設されたアドホックな賞だ。主流派の経済学を形作り、現代社会における権威の発揚に大きな役割を果たしてきた。

 しかし、なにかがおかしい。どうして英米文化圏が圧倒的なのだろう?

 我らの属しているグローバル経済体制の歴史的な成り立ちをふり返ると答えが見えてくる。それは、つまり、グローバル経済体は英米圏が構築した経済プラットホームなのだ。英米圏はゲームメイカーであり、ルールチェンジャでもあるのが経済発展史からうかがえる。それ自体は異とするには至らない。なにしろ近代世界の勝ち組だからだ。

 ダラダラ弁解はやめて、最近になって到達した尤度の高い結論を言おう。

ひとまずの結論
 1)英米は「市場原理主義」で「リベラル」という名目的な経済プラットホームを世界に作り上げた
 2)主流派「経済学」はその維持と擁護のための学問に転化してしまっている。
 3)主流派経済学はノーベル経済学賞とほとんど一体的になっている

  英米の「経済プラットホーム」は近世史のなかで生じた資本主義の特殊形態でしかない優れた仕掛けである、公正であり、必然的であるという証拠は何一つない。

 

いくつかの論拠
 プランテーションという植民地の仕組みが、現在のアジアアフリカ南アメリカの経済隷属化の埋め込みになっている。旧植民地が経済的に自立化できないのは、その社会構造にプランテーション生産スタイルを抱え込んでいるためだ。

 以前のブログでものしたように食糧生産体制は大きな問題と危機をはらんでいる。それは植民地時代の生産図式が主流派経済学で裏打ちされているためでもある。合理性や最大利得は現在の生産体制を擁護するのだ。地産地消など旧植民地国に求めてはならないのだ。

 「世界的な食糧価格の値上がりが忍び寄る」で提示した図式を参照していただきたい。食糧問題の根幹に近代世界システムの遺産があることが裏打ちされる。

 あのリカードの法則は比較優位の法則ともいう。後進国はいつまでも単一の生産物を繰り返し生産するのが正しい姿だと決めつけているのだ。それはヘクシャ=オリーンの定理になって主流派経済学の基礎になっている。

 1)はウォーラステイン らの「近代世界システム」と直接的な関連性がある。イギリスは地球レベルで初めての覇権を確立した。その地球レベルでの経済的仕組みを拡張するかたちで継承したのがアメリカ合衆国だ。その経済的仕組み大英帝国の伸展期のアダム・スミスリカードらにより基礎固めされ、その上に近代経済学が構築された。マルクスもヨーロッパ圏内に関して貢献している。それが主流派の「近代経済学」なのだと思う。

 「近代経済学」の発生と形成期についてイギリスの歴史的な状況との関連性を明確に主張したのはどこかに誰かがいるであろう。

 普遍性と客観性という点で「近代経済学」は大きな欠陥をもった体系だ。少なくとも社会主義国家のマルクス主義経済学と同じレベルの「科学」なのではないか?

 水不足や食糧問題など、今ここにある危機は主流派経済学というイデオロギにより解決することが、非常に困難だ。

 景気対策や経済成長といった経済学のなわばりですら、その有効性には暗雲がたちこめている。先進国の低成長や赤字財政はいっこうに改善していない。

 現代経済学による処方を先進国の指導者は真に受けているが、一向に病状が改まらない理由は、主流派経済学の自家中毒症状ではないか?

 では、どうすればいいのだ? と反論することは可能だ。そして、自分はそれに応答することはできないのだ。ことほどさように、市場を基礎にする経済思考はわれらをがんじがらめに縛っている。

 現代社会をアフォリズム風に表現するとこうだ。

    地獄ではすべてに値札が付く

 

【参考文献】

 あえて言えば、カール・ポランニーの思想は導きの糸になるかもしれない。

 政治と経済の分離への抵抗、土地や労働、貨幣の商品化への批判。資本主義と民主主義の両立不可能性を縦横に論じた。

 

 

 

  経済学の内側からノーベル経済学賞批判は、この本による。受賞者のシカゴ学派の独占が語られる。独占禁止法は適用できないのだ。

 本書に述べられた経済学者の経歴をもとにシカゴ大学シカゴ学派ではない)に関連したノーベル経済学賞受賞数は15人にもなり、以下の錚々たるリストになる。

フリードリヒ.A・フォン・ハイエク
ミルトン・フリードマン
ゲイリー.S・ベッカー
ジョージ.J・ステイグラー
セオドア.W・シュルツ
ロナルド.H・コース
ジエイムズ.M・ブキャナン・ジュニア
マートン.H・ミラー
ハリー.M・マーコウィッツ
マイロン.S・ショールズ
ボール.A・サミュエルソン
ロバート.E・ルーカス
エドワード.C・ブレスコット
口パート.A・マンデル
ジエイムズ.J・ヘックマン

 じつにアメリカ合衆国の受賞者の25%がシカゴ学派関係者ということになる。

 

 

  斯界の権威による簡潔でわかりやすい近代世界システムの解説。主流派経済学との関係は触れていないが、きっと著者は上記と同じ仮説を有しているだろう。

 近代世界システムご用達の学問になっていることへの不安は、この本での唯一の経済学の書誌がポランニーの『大転換』であることから推察される。