サイエンスとサピエンス

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バイオテクノロジーでの日本の貢献度合い

 手頃な教科書として定評があるラインハート・レンネバーグ『EURO版バイオテクノロジーの教科書』をもとに日本の研究の貢献度合いを顧みておこう。
 この本の著者はドイツ人であるが日本でも研究していた経歴がある。

 高峰譲吉の「微生物による酵素生産の特許」が最初に出てくる。微生物工業の創始者の一人なのだそうだ。カビ(アスペルギルス・オリゼ)を栄養分を染み込まさせたワラで繁殖させて、タカジアスターゼを生産したのだ。1894年つまりは、明治27年のことだ。
 池田菊苗帝国大学教授の業績も引用される。グルタミン酸ナトリウム(MSG)の発明者。鈴木三郎助は工業生産の道を切り開いた。小麦グルテンをもとにMSGの大量生産を実現した。味の素の始まりだ。理研の定礎を行ったのも池田菊苗だった。
 味の素とともに協和発酵の創業者である加藤辯三郎博士も称賛されている。発酵技術によるタンパク質製造で飢えた日本国民を救うというのが目標だったという。

 清涼飲料水での甘味料の重要な化学物質はフルクトースシロップだ。デンプンから生産されるのでサトウキビの価格変動には左右されない。その工業生産に先鞭をつけたのも日本の研究者である高崎良幸らだった。糖尿病にはショ糖やデンプンよりもフルクトースのほうが血糖値コントロールには相応しいとされている。
 チーズ生成に重要な凝乳酵素の開発には東大教授の有馬啓教授らが発見したケカビの酵素が使われている。
 「京大プロセス」という環境調和型の物質生産プロセスが山田秀明教授の包括的生産工学手法として一部の重要な有機物の工業生産に貢献している。
 北里柴三郎の先駆的研究、秦左三郎や最近ノーベル賞を受賞した大村智らの業績も記載されている。
 利根川進博士の免疫グロブリン研究、遠藤章博士の「スタチン」と山中伸弥教授の「iPS細胞」の扱いは特筆ものになっているのは異論がないところだろう。

 以上のように、これまでの日本人研究者のバイオテクノロジーへの貢献は欧米圏のそれに勝るとまでいかずとも、見劣りはしないレベルのものであるのがわかった。
 先人たちの業績を継承しつつ、今後、日本でのバイオテクノロジー研究の推進力は維持されるのであろうか? 
 漏れ聞こえる国内の研究環境からすると、なかなかに難しいところなのではないだろうか。

【参考文献】
 コンパクトサイズながらバランスのとれた良い教科書だ。

カラー図解 EURO版 バイオテクノロジーの教科書(上) (ブルーバックス)

カラー図解 EURO版 バイオテクノロジーの教科書(上) (ブルーバックス)

カラー図解 EURO版 バイオテクノロジーの教科書(下) (ブルーバックス)

カラー図解 EURO版 バイオテクノロジーの教科書(下) (ブルーバックス)