サイエンスとサピエンス

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本格SFの凋落の危機

 本格SFなるものは何か。古くはアシモフ、クラーク、ハインラインといえば何となく通じよう。壮大な未来史とか、銀河帝国とか、とんでもない大舞台での人間の活躍を痛快に描く。かといってスペース・オペラのように西部劇や戦争ものを宇宙に移し替えただけでの活劇とも一線を画する。
 オールディス、バラード、ディック、ゼラズニイ、ディーレニイなどはその固い部分集合だ。
 バーリントン・ベイリーやホーガンなどハードSFも、まあ、人間味には落ちるかもしれないが、本格SFといえる。

 仮にそうしておいて、最近のSF状況を「ハヤカワ文庫解説目録2015」から数値的に検証してみよう。
 70周年という目出度い長寿出版社となった早川書店。そのハヤカワ文庫はSFの老舗文庫でもある。
 そこで全354ページ(索引45ページは除く)を分野別に集計してみる。海外SFは48ページだ。海外ファンタジーは24ページ。JAという日本SFは92ページある。
その他はノンフィクションやらミステリー、演劇、ノベルだから無視する。
 JAに属する小説群には甚だ興味が無い。どうもSFっていうても私小説的な味わいが抜けないので苦手だ。それ故に自動的に本格SFにはカウントしない。なにしろ、自然神学の伝統がない日本人には本格的なSFは向かないというのが持論だから。

 問題は48ページの内訳なのだ。後半48ページから55ページまでの8ページ分は「ローダン・シリーズ」であり、本格SFではない(それにしても、なんと489冊まで刊行!)
 昔日の巨匠たち(アシモフ、クラーク、ハインライン)が見る影もないほどやせ細りまくったラインナップである。例外的な存在がPKD=ディックだ。映画化された作品も多いというのがそのヒントとなるかもしれない。
 あとは名も知れぬシリーズものが多い。「若獅子ヘルフォート戦史」「氷と炎の歌」「永遠の戦士エルリック(ファンタジーやないの?)」などなど。ある意味、類型的な作品群で、その独自世界が飲み込めてしまえば安心して読めるのが特徴だ。
 どれこれもシリーズというのは、アメリカのテレビドラマ・シリーズのような存在なのだ。純文学的なカート・ヴォネガットJrは健闘しているようだけれど、レムは不在に近いし、オールディスもバラードもいない。
 本格SFの最後で最大級の輝きはダン・シモンズであったのかもしれない。

 ということで、海外SFというコンテンツはもはやハリウッド映画に飲み込まれたのだと知れる。近所のゲオの最新DVDコーナーのハリウッドものの多くはSF系だ。もはや小説なんかより、百聞はCGの一見に如かずなのだろう。
 これを考えるキッカケは早川書房の老舗SF雑誌『SFマガジン』の隔月化のニュースであったことを付け加えておこう。