核戦争後に生き残る国、かつてオーストラリアを舞台にした『渚にて』という作品があった。北半球で再び核戦争の危機が高まっている今、それは起こりえる現代文明の選択肢かもしれない。
水晶球のなかの不確実な未来を語るまえに、目睫の間にせまるオーストラリアの起きつつある環境破壊を顧みておくのも悪くはあるまい。
今年のオーストラリアの環境破壊ニュースからリマインドしよう(地震はちと違うが)
「広大なマングローブ林が立ち枯れ」(2016年7月)
「極めて地震の少ないオーストラリアでマグニチュード6.1の地震 」(2016年5月)
「世界最大のサンゴ礁で大量死、豪政府が緊急対応」(2016年3月)
オーストラリアの環境政策については名著『文明崩壊』のジャレッド・ダイヤモンドが歯に衣着せぬ批判をしている。
牧畜最優先、森林伐採規制なし、資源採掘依存のあり方は深刻な土壌劣化をもたらしている。森林問題については森林パルプの最大輸入国である日本も責任がある。*1
ヨーロッパから持ち込まれたウサギとヒツジは現地の植生にまったく破壊的な作用をもたらし、この大きな島国の生態系の過半を修復不可能な状態にしている。
ヨーロッパ人の移住以来、オーストラリアの半分の森林と75%の多雨林が失われ、90%以上のオールドグロース林が伐採された。
追加するならば、アボリジニも白人入植者により虫けらのように駆除された。一説によれば、このジェノサイドの結果、人口は10分の1になった。
白人の入植当初50〜100万人いたアボリジニの人口は1920年ごろには約7万人にまで減少していた。
心優しきニヒリストのカート・ヴォネガットにならえば、「So it goes」
陸の問題は沿岸の生態系の問題にも直結する。周辺のサンゴ礁は死に瀕している。クジラを捕るなとか、イルカ保護とか言っている場合ではない。
サンゴ礁に依拠する種がまるごと絶滅するのだ。マングローブ林の死滅の原因も同じ根っこだろう。
干ばつや高温など異常気象は2000年に入ってからオーストラリア気候の定番になった。もはやニュースにもならないのだ。
つまりは、核戦争後にオーストラリアにて生き残った人類は過酷な環境破壊にも直面するということになり、泣き面に蜂となるわけである。
ヤレヤレ。
So it goes.
ネビル・シュート原作のあの名画を再び。
ジャレッド・ダイヤモンドはオーストラリアについては苦言しか述べていない。現地の住民や原生種にとって白人の入植は災難以外のなにものでもないと言うわけだ。
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*1:日本のパルプの消費の悪影響は熱帯林行動ネットワーク参照