それはアリストテレスであろうと言われている。
ファリントンを引用する。
生物学的著作では、アリストテレスは科学に対して偉大な貢献をした。それは個人で科学に対して成し得た最大の貢献である
ダーウィンが後世に「リンネを先生と思い尊敬してきたが、アリストテレスの前に出たら、みな小学生だ」と発言しているのは、『動物誌』『動物部分論』『動物運動論』などを読んだうえでの感嘆と感動の表現である。
しかしながら、ここで展開したいのはその「自然科学」への貢献である。それはアリストテレスの創始したペリパトス学派が、アレキサンドリアのムセイオンに流れ込みヘレニズム期の科学技術を体現した(ミュージアムはミューズという女神)ことを除外したとしても、それでもなお、始祖にして最大の学匠であったことだ。
要するに、自然科学の基盤をほとんど独力で構築したことだ。
生物学の業績だけではなく、自然学についての基盤づくりを振り返っておくことが、ここでの主意だ。上述のファリントンはこれにはマイナス評価である。
彼の『自然学』の並びから見てみよう。
- 原理について
- 自然について
- 動について
- 場所について
- 時間について
骨子からだけでも、すでに自然科学の対象の範囲と方法を視程に入れている。
つまり、ゲームの規則はすべて規定されているのだ。
「原理について」では、 原理の数 原因の種類 偶然と必然を論じている。
科学のレールは敷かれた。日本では縄文時代で土偶を焼いていた時代である。
「時間について」では現代に至るまで議論の対象となりうるような、そうした時間論を開陳している。何よりも定量化へ一歩踏み出しているのは瞠目すべきであろう。
入念な討議の後に生み出された「時間の定義」はこうなる。
時間とは、「より先」と「より後」の区別に基づく運動の数であり、連続的な正確なものである
方向をもつ数直線としての時間の特性が、少なくともその萌芽はすでにある。
ガリレオが彼の力学を創始するときに争わなけれならなかったのは、アリストテレスの自然学であるが、しかし、それはアリストテレスの作った土俵上での争いであったといえる。
トーマス・クーンの初期論文はアリストテレスの自然学であった。
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