クロスオーバーな才能ってのには妙に惹かれる。とくに文系と理系のクロスオーバーというのには目がない。
プリーモ・レーヴィという化学者で小説家がいたのを知ったのは昨年あたりだ。ユダヤ系イタリア人でアウシュビッツ経験もある。
作品も『形の欠陥』とか『周期律表』とか風変わりだ。でもストレーガ賞とかカンピエッロ文学賞とか栄誉を受けても、彼の投身自殺を止めることはできなかった。そういう点でパヴェーゼに似通っている。
「天使の蝶」は綺羅びやかさとはほど遠いが天使への綱渡りに失敗した化学者のお話しだ。それをネオテニー(幼形成熟)というパスを伝って獲得しようした道化的人物のリアリズム小説だ。この設定だけで普通の文学者とかけ離れた精神であるのが予兆されるというものだ。
その失敗の残骸は蛆とゴミと腐敗臭に満ちた混沌のアパートに残されていた。四人の実験台と四羽の醜い病的な猛禽がその成果だったようだ。物語りはそこで寸断される..。
これだけのストーリーから後に取り残された読者は何を読み取るかが問題だ。
それから「ビテュニアの検閲制度」はレム的な寓話。この「猛成苔」もそうだ。
ほぼ同世代のイタロ・カルビィーノとの類似性もあるが、レービィの小説には「軽さ」がなく「重み」、それも救いようのない重みだけがズッシリと残るのだ。
レービィが『莊子』を読んだとしたら、そして「荘周夢に胡蝶となる」に共鳴したら、もう少し長生きできたかもしれない。カルビィーノがあの「文学講義」で説いた「軽さ」があれば、もっと解き放たれただろうと思う。
- 作者: プリーモレーヴィ,Primo Levi,関口英子
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2008/09/09
- メディア: 文庫
- 購入: 11人 クリック: 74回
- この商品を含むブログ (37件) を見る
カルヴィーノ アメリカ講義――新たな千年紀のための六つのメモ (岩波文庫)
- 作者: イタロ・カルヴィーノ,米川良夫,和田忠彦
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2011/04/27
- メディア: 文庫
- 購入: 4人 クリック: 33回
- この商品を含むブログ (17件) を見る
【改訂完全版】アウシュヴィッツは終わらない これが人間か (朝日選書)
- 作者: プリーモ・レーヴィ,竹山博英
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2017/10/10
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (2件) を見る