パル判決書は翻訳書でも1600ページになんなんとする浩瀚なものであるが、それは日本無罪論では決してない。ましてやパール判事が日本軍部の真の理解者だったわけじゃない。
連合軍のキーナン検事らの侵略行為や共同謀議などに関する検察側の訴追内容にことごとく異をたてたのは確かだ。
彼の文を読むとそれを否定したのではなく、国際法上ナンセンスとしたのである。
言ってみれば欧米の立てた法を盾にとって、日本の行為を訴追できる立場に連合国はないと断じたわけだ。彼の正義観念が覇権国家の一方的な言いがかりを許さなかった。
彼の真意は、原爆に関する下記のような発言にある。
本官(パル)自身としては原子爆弾を使用した人間が、それを正当化しようとして使った言葉の中に、かような博い人道観を見出すことはできない。事実、第一次世界大戦中、戦争遂行にあたってみずから指令した残忍な方法を正当化するために、ドイツ皇帝が述べたといわれている言葉と、第二次大戦後これらの非人道的な爆撃を正当化するために、現在唱えられている言葉との間には、さして差異があるとは本官は考えられないのである。
パールが後年日本のグループの招きで広島を訪れた際、「原爆記念碑」の銘文
「安らかに眠ってください。過ちは繰り返しませぬから」
を読んだ感想が彼の真情をかいま見せてくれている。彼は日本人人民の心情に深い理解を寄せている。
抑圧されたアジア解放の聖なる誓いに身を捧げた魂よ!
安らかなれ あなたの啓示を私は常に護持する
当時の日本人の大半は侵略への肩入れよりは、アジアの復興を信じて戦ったのではないか。一部の軍人政治家財界人が不正侵略を行ったが、多くは大東亜共栄圏というユートピアを信じたうえでの不義不正であったのかもしれない。
だが、多くの国民はアジアの黎明を信じていたというのはありそうだ。何よりも、そのために銃後にあった一般市民を一挙に殲滅するのは、いかにも東洋のアウシュビッツというべきであろう。
と、そうパール判事は言っているのだ。
- 作者: 東京裁判研究会
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1984/02
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 14回
- この商品を含むブログ (41件) を見る