退屈な専門書を読んでいると眠気を催してしまう。けれどもなかには眠気覚ましになるような事実もあって、退屈なテレビ番組よりドッキリハラハラさせられる。如何にも大げさかもしれないが、そのひとつがインドの原子論だろう。
仏説に六師外道という思想家が登場する。要するに仏教への有力なライバルだ。その一人にジャイナ教創始者のマハーヴィーラがいる。
ジャイナ教はインドでも命脈を保ち、害を及ぼしたことのない宗教として知られ、かの南方熊楠もその教義尊ぶべしとした。
その世界観に、原子論があるのだ。中村元の「インド思想史」に下記のごとく記載されているので、間違いではない。
物質は原子から構成されているが、原子は部分を有せず、分割し得ず、また破壊することのできぬものである。原子それ自体は知覚され難いものであるが、それが集合して現実の知覚され得る物質を形成している
これが紀元前5世紀頃の論説であるとすれば、随分と進んだ思考法を持っていたものだと驚くほかない。
十九世紀あたりの原子論と変わるところがない。*1
後期のインド哲学では原子のことを「微細なもの(アヌ)」または「極度に微細なもの(パラマーヌ)」と呼んでいる。(「ジャイナ教入門」)
この極微なるものや極大なのものについて、インド人の思考・構想力は爆発するのだ。それがインド数学の一大特徴にもなる。
後代のイスラーム神学でも原子論が生まれる。上のインド思想と関係があるかどうかは(少なくとも門外漢の小生には)不明だ。
アシュアリー学派の分派が原子論を組み上げた。
すべての実体はそれぞれ完全に独立して各々が離れ離れに立っている。こういう視点から見た実体を人は「原子」al-jawhar al-fardと名付けた
井筒俊彦の「イスラーム思想史」に書いてあるので、間違いはない。
イスラーム原子論で興味深いのは「アッラー」の絶対性を擁護する思想として考えられていることだ。
こうして見ると原子論や素粒子論は「神の存在」と矛盾するわけではないのだろう。
参考
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