アニメやフィギュアなど模造異性にアコガレてしまう人びとが多いそうです。
歴史上はじめて日本に登場したニュータイプなのかというとそうでもないです。
なんといってもギリシア伝説にピグマリオンがいます。それを20世紀になってイギリスの戯曲家のバーナード・ショーがとりあげ、そのネタをもとにして『マイ・フェア・レディ』なるハリウッド映画が生まれ、それを流用した国産車メーカーのニッサンがスポーツカーに仕立てたのです。
これは、しかし、かつての「プリンセスメーカー」のような恋人飼育ゲームに近い文化的血脈なのかもしれないです。
ハナシがそれましたけれど、人工的な平面次元の異性に「もえ」るテーマをとりあげた組み合わせとして絶妙なのは、フロイドとイェンゼンの『文学と精神分析』でしょう。当代一流の知性が、この世に存在しない女性に焦がれる男性を考察するのであります。これにまさるのは少ないでないでしょう。
まずは、この古代ローマ期の浮き彫りをご覧いただきたい。
実在するバチカン博物館所蔵の古代ローマのレリーフ(2.5次元)です。
このレリーフはたしかに、かの国の在りし日に生きていた人間を感じさせる作品です。なによりもその歩きぶりが、ちがいます。家族はこの女性の生前のおもかげをしっかりとみてとったに違いなのでしょう。
イェンゼンの原作『グラディーヴァ』はこの彫像の魅力、否、彫像の女性に時空を超えた思慕をもってしまったドイツ人学者の物語です。この世に存在しない異性への恋!なんと、その思いは成就するのですが、それは『文学と精神分析』をお読みになれば分かります。
フロイトは一番弟子のユングに勧められて『グラディーヴァ』を一読、夢判断で確立した分析技法を自在に駆使して、作者の無意識を洗いだしています。それが小説の精神分析の始まりになったとのこと。フロイドはイェンゼンの昔の悲恋体験が作品の底にあると指摘して、著者に手紙を書いています。まったく余計なお節介ですなあ。
蛇足ながら、私の『文学と精神分析』の読み替えを申し添えておきます。
「萠え」妄想がどのように発生しているかが、この小説につぶさに記述があること。主人公が現実に地がついていない夢見がちな青年であり、学者という幼稚さが必要な職業であること。学者は現実ではなく非現実に没入するのがその才能なのです。
ついでに「萠え」妄想が実在女性に投映されることで主人公は救われていること。良識ある異性に救済してもらってます。夢想に陥りがちな男と現実をわきまえた女という対比は、むかしからあったのです。
そして、フロイドが人工異性への思慕を「抑制された無意識」とみなし、この小説を発病と治療の流れととらえていること、以上がとても現代的なテーマであると読み取ったのであります。
- 作者: フロイド,イェンゼン,安田徳太郎,安田洋治
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1960/06
- メディア: 文庫
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