サイエンスとサピエンス

気になるヒト、それに気なる科学情報の寄せ集め

英国科学史上の3つの汚点

 純粋な科学がイタズラな先入観から技術的発展を遅らせしてしまう、そんな典型をイギリスの科学史から拾い出しておこう。

1)電子計算機への学問的投資の忌避
 ライトヒル卿(飛行流体力学や音響流体学の権威)を長とする政府の諮問委員会が「電子計算機研究」への英国政府の予算配分を低下させたこと。この決定で日本にすら電子計算機開発で遅れをとってしまった。
 バベッジチューリングを生んだ国の大ぽか。

計算機の歴史―パスカルからノイマンまで (1979年)

計算機の歴史―パスカルからノイマンまで (1979年)


2)電信ケーブルの理論的ミスと過信
 レイリー卿(イギリスの理論&実験の万能物理学者)はマクスウェル方程式に基づき長距離の通信ケーブルは理論的にありえないとして、ヘビサイドらの実績を無視した。
海底ケーブルが理論的にありえない、とレイリー卿は信じていた!ということこそ、今からすれば信じられない。事実は、リアクタンスを調整することで信号の減衰を防げるのだ。
 同じ頃に、日本では無装荷ケーブルが生まれ、実用化に先鞭をつけた。

その経緯と理論についてはこの本が啓発的。

図解・わかる電気と電子―具体例から原理を語る (ブルーバックス)

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3)ハリソンの海上時計と天文学者
 イギリスの国運は艦隊、貿易船と戦艦の喪失回避や効率的運営に大きく依存していた。18世紀、経度を精密にはかる装置として「海上時計」を賞金付きで公募する。天文学者や時計職人たちはわれこそはと応募する。どんな悪天候やユレでも数秒と狂わない時計を実現したのは一介の時計職人ジョン・ハリソン。
 結局は科学振興に理解があった王の介添えで栄誉を最晩年に受けることはできはしたが、その栄誉を妨害したのは王立協会の天文学者と役人的煩瑣だった。職人的技巧を軽蔑してその当然の成果を邪魔しようとする科学者という珍しき図式がある。


経度への挑戦―一秒にかけた四百年

経度への挑戦―一秒にかけた四百年

 ハリソンの時計についてのベストセラー。隠れた名著というべきだろうね。