純粋な科学がイタズラな先入観から技術的発展を遅らせしてしまう、そんな典型をイギリスの科学史から拾い出しておこう。
1)電子計算機への学問的投資の忌避
ライトヒル卿(飛行流体力学や音響流体学の権威)を長とする政府の諮問委員会が「電子計算機研究」への英国政府の予算配分を低下させたこと。この決定で日本にすら電子計算機開発で遅れをとってしまった。
バベッジとチューリングを生んだ国の大ぽか。
- 作者: 末包良太,ハーマン H.ゴールドスタイン
- 出版社/メーカー: 共立出版
- 発売日: 1979/01
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2)電信ケーブルの理論的ミスと過信
レイリー卿(イギリスの理論&実験の万能物理学者)はマクスウェル方程式に基づき長距離の通信ケーブルは理論的にありえないとして、ヘビサイドらの実績を無視した。
海底ケーブルが理論的にありえない、とレイリー卿は信じていた!ということこそ、今からすれば信じられない。事実は、リアクタンスを調整することで信号の減衰を防げるのだ。
同じ頃に、日本では無装荷ケーブルが生まれ、実用化に先鞭をつけた。
その経緯と理論についてはこの本が啓発的。
図解・わかる電気と電子―具体例から原理を語る (ブルーバックス)
- 作者: 見城尚志
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1999/04/20
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3)ハリソンの海上時計と天文学者
イギリスの国運は艦隊、貿易船と戦艦の喪失回避や効率的運営に大きく依存していた。18世紀、経度を精密にはかる装置として「海上時計」を賞金付きで公募する。天文学者や時計職人たちはわれこそはと応募する。どんな悪天候やユレでも数秒と狂わない時計を実現したのは一介の時計職人ジョン・ハリソン。
結局は科学振興に理解があった王の介添えで栄誉を最晩年に受けることはできはしたが、その栄誉を妨害したのは王立協会の天文学者と役人的煩瑣だった。職人的技巧を軽蔑してその当然の成果を邪魔しようとする科学者という珍しき図式がある。
- 作者: デーヴァソベル,Dava Sobel,藤井留美
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 1997/07
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