サイエンスとサピエンス

気になるヒト、それに気なる科学情報の寄せ集め

汎用的な真理値関数による思考実験

 仮に命題の真理値を計算できる汎用的な関数の存在を認めるとどんなことが言えるだろう?
真理値関数の入力は真偽を判断する命題、時間、場所、ヒト(判断主体)、それに文化とする。

 ヒトと文化の変数は切り分けが難しい。
 言語はどこに属するか?宗教はどうするか?経済的な変数をどう扱うのかとか疑問が尽きないだろう。ヒトが決まればその文化も決まるのかもしれない。だが、ここはヒトがユニークに決まり、そのヒトが属する社会的環境を文化と切り分けしたと浅く理解してもらうとしよう。
 文化もあいまいな概念だが、ここはかつての存在したものを含めて幅広く取り込む。縄文文化新石器時代の文化、チョクトーインディアン文化、ヘレニズム文化から、ベル・エポックロシア・アヴァンギャルドまで文化とくくれるものの総体としておく。

 真理値関数の出力は命題がその判断主体にとって真とみなされれば、「1」。偽ならば「0」である。だが、確信をもって判断できない場合は0と1の間の値を選ぶことにする。

 何を判断させたいか? 
 というよりこの関数が存在するならば、何が言えるだろうか?
唯一神はある」という命題をとる。人により真理値が異なる。つまりは普遍的な真理値を持ち得ないことになる。
 こんな超越的な問題ではなく、客観的で定量的な命題でも真偽を判断できないことがある。
「今この瞬間のアメリカ大陸上にいる生存中の人間の数はカウントできる」
この命題は実行不可能であるため、偽になるだろう。
科学的な命題でも真理値が確定しないことがある。
「1立方メートル中の分子の数は一桁のレベルでカウントできる」
これも実行できないという意味で「0」になろう。

 判断の内容を現代の科学レベルに緩めてみる。
「一モル中の分子数はアボガドロ数程度である」
 義務教育を受けた現代人の多くは真とみなすかもしれないが、有史以前のエジプト人にこの判定を求めても偽になろう。
 そもそもこの命題を単独で説明することは不可能であるというのはクワイン全体論である。現代化学&科学のもとになる分子論は多くの命題とその真であることにより成立している。それらの関連命題を古代エジプト人にすべて納得してもらえれば、真になるかもしれない。
 だが、そもそもそんなことが実行可能だろうか?

 独立した命題の真偽は決められないということになると相互関係で結合された命題の集合について、この真理値関数を判断してもらうことになる。
 それは同じ時代で同じ文化圏と言語と一定の教育によって常識的に育った正常なヒト同士で、真理値の「真なる命題」の集合を共有できることになろう。これは一種のパラダイムのようなものだ。

 この関数を用いて究極の真理を判断するにはどうすればよいだろう? 
 これが思考実験の一番目。
 真理値関数を入力に言い換えると、時間と場所を可能な限り延伸して文化を乗り越え、個体差をこえて、その命題が「1」である、そんな命題を探せばいいわけである。
 だが、そのような命題はありそうもない。
 「究極的な真理となる命題は存在しない」

 真理値関数を用いて、占星術と現代の先端技術による天文学と比較して、どちらが真理であるかを判定できるか?
 これが思考実験の二番目。
 その優劣を現代の天文学を「真」側と判定するヒトの数で決めれば、占星術のほうが逆転勝利するであろう。
つまりは判断の数の問題ではなく、それを判定するヒトの集合の問題ということなる。だがそれをどう選べばいいのかの基準が定まらない。常識的に現代の天文学者に判断を委ねるというのが多くの人びとの意見だろうが、不公平なのは明らかだろう。
 それに百年後の天文学者の意見は異なるかもしれない。マヤの天体観測をしていた神官も専門家だがその意見も異なるであろう。
 時代とともに変化する知識についての「真」の判定は限定的なのだと言わざるをえない。

 つまりは、究極的な真というものを仮定するならば、先端科学とバビロニア由来の占星術とではどちらも「偽」に近い。目くそ鼻くそ状態なのかもしれないのだ。
 でも、一番目では究極的な真理がないとしておきながら、ここではそれを持ち出すのかと指摘があろう。そういうヒトは究極的な天文学上の真理がないということを言いたいのだろう。
 そうなのだ。
では百年前の西洋天文学(エディントン、ポアンカレやミルンやハップルの頃だろう)と現代天文学の差異は何なのだろう?
 これは単に真理値関数の入力値が変化したに過ぎないというのが、自分の回答(暫定的な立場)である。
 つまり、それは時間と場所と文化に依存したうえでの「真なる命題」集合に立脚しているということが、一先ずここでの思弁的な結論になる。


 真理値関数を離れてしまえば、天文学のような最先端科学が古代科学より優れているかどうかは問うまでもない。太陽系内を観測衛星が自在に観測し、宇宙空間に有人衛星を飛ばしているほうが、より優れており包括的な知識=命題体系を構築しているのは明らかだ。
 このような「道具」による操作範囲の拡大は真理値関数には組み込めない。それはこの手の科学論の限界でもあることは認めておこう。


 

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