サイエンスとサピエンス

気になるヒト、それに気なる科学情報の寄せ集め

レフ・ランダウについての覚え書き

 ソ連有数の理論物理学者であったランダウは熱烈なトロツキストであった。
反政府的な活動で投獄されたが、奇跡的に放免されている。スターリン体制下で投獄されて放免されたケースはきわめてまれだ。しかも彼の場合には、ほんとうに有罪だったのだ。反スターリンのビラ配りをしたのだ。
だが、師匠の実験物理学者カピッツアが政治力を行使して、愛弟子を救い出したという。
 誹謗による無実の罪での投獄ではなく、ビラ配りを実施してのKGBによる逮捕・投獄であったことが、十数年前に判明して波紋を呼んだ。

 彼は、トロツキーと同じユダヤ系であった。のちに、ソ連核兵器開発への貢献で国家的英雄となった。逆にカピッツアは政治的に弾圧を受けている。
 だが、現代では水爆開発に協力したことが批判を浴びている。彼の師のカピッツアは牢獄から救い出した恩人でもあるが、非協力を貫き自宅幽閉となっている。

 ランダウはよく米国のファインマンと対比される。
 なんといっても、両人ともにユダヤの血筋である。当然、物理における多方面での顕著な業績とノーベル賞受賞は合致する。核兵器開発に従事したこと。ほとんど万能といえるほど物理に通暁していて、有名な教科書シリーズがあることなどだ。
 女性関係が派手だったこともそうかもしれない。ランダウは自由恋愛主義者だという。

 ハーバード大図書館には、ランダウ=リフシッツ理論物理学教程はファインマンの4倍ほど所蔵されているそうだ。巻数ではファインマン物理学は全5巻であり、ランダウは全10巻であるので、実質的には2倍になる。

・第1巻 「力学(第3版)」
・第2巻 「場の古典論(第6版)」
・第3巻 「量子力学(第3版)」
・第4巻 「量子電気力学(第2版)」
・第5巻 「統計物理学(第3版)」
・第6巻 「流体力学(第3版)」
・第7巻 「弾性理論(第4版)」
・第8巻 「媒質中の電気力学(第2版)」
・第9巻 「量子統計物理学(統計物理学第2部)」
・第10巻 「物理学的運動学」

 まさに金字塔だねえ。日本でも尊敬する戸田盛和師が物理30講シリーズを出しておられるが、ランダウのがダンテ神曲とすれば、まあ、芭蕉俳句集に近い感じがする。

 これらは、ほとんどが翻訳されているが、入手できない書籍もある。
 ちなみに名著「流体力学」の英語版は目出度くもフリーダウンロードできるようになった。
LandauLifshiz 『Fluid Mechanics』(原著英訳版)pdf

 ファインマンとの違いは、学派を創り上げたことだろう。
 また、論文を書くのが苦手だったという説もある。教科書はリフシッツがドラフトしたとか。だが、ランダウは交通事故にあって晩年の6年間は天才の面影はなかった。


 ロシア語版のドキュメンタリー。瞬間的に動画でランダウが登場する。

 自身もトロツキストの佐々木力氏(著名な科学史家)による最新の評伝があるので、ランダウファン必読だ。

物理学者ランダウ―スターリン体制への叛逆

物理学者ランダウ―スターリン体制への叛逆

  • 発売日: 2004/12/09
  • メディア: 単行本



 トロツキーに対する反感はこのブログでも彼の動画映像とともに書いておいた。
 その反体制勢力に対する容赦なき弾圧は、晩期の彼自身にもふりかかったというべきだ。

http://d.hatena.ne.jp/Hyperion64+universe/20101202/1291299224
http://d.hatena.ne.jp/Hyperion64+universe/20101027/1288186701