かつてツェーラムの『神・墓・学者』が世界的なブームを巻き起こしたことがある。
エジプト、メソポタミア、マヤなど名だたる発掘と成果をイマジネーション豊かに読者に伝えて、世界史の基礎知識を塗り替えるだけでなく、考古学の楽しみを余すところ無く語ってくれた。
なかなかツェーラムの本に勝るガイドは、存在してないのではないだろうか。
ツェーラムの本の出たのは40年前だ。考古学の世界は大きく塗り替えられているだろうに、誰もそれをわかりやすく包括的に紹介していないようなのだ。
個別にテレビなどの特集番組で、古代文明をテーマとしたシリーズがあり、それなりに面白いし、存在意義はある。
だが、映像は理論や学説を十分に伝達えはしない。論理的な解説や図示、系統的な理解や反論やその反批判みたいなものを期待できないのだ。映像はわかったつもりにはさせてくれるが一面的な理解しか与えないだろう。勢いテレビ漬けの現代人の理解は浅く視覚的なとおり一遍なものになりがちになる。
映像だけでの教養はそれを他人にうまく話せないことにもつながる。だから、クイズ番組や教養番組は、記憶に根付かせ、深く理解させる点においては、成功していないようなのだ。
愚痴はともかく、ツェーラム以降で面白い考古学ガイドは、マイヤーの『考古学の楽しみ』(学生社)ということになろう。1970年と古いのが玉に瑕である。
その内容は今日でも色褪せることはない。ツェーラムが書き漏らしているストーンヘンジ、南フランスの洞窟壁画、地中海文明とイギリスの歴史など実に楽しい知識に溢れている。
著者はジャーナリストだが、実に博識かつ精力的な旅行家で勉強家である。
こんな本を再刊して現代人に再度味読してほしいものだ。
あるいは、古代史を世界的な視野で一般向けに解説した読み物が、そろそろ必要なのではないだろうか。なにせ、古代文明の興廃についてはこの40年にずいぶんと確実な学説が出そろっているはずだ。
その滅亡の概略は、環境変化に起因する社会システムの崩壊であると見ていいようだ。アンコール文明やマヤ文明などいまだ原因がすっきりしない中古文明もあるが。
現代文明の危機を見直すためにも古代文明史を俯瞰してみたいものだ。それが現代人の為すべき重要な知的な投資であると思う。
- 作者: カール・マイヤー,大倉文雄
- 出版社/メーカー: 学生社
- 発売日: 1974/01/01
- メディア: 単行本
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