実在した史上最高のマッドサイエンティストは誰であろうか?
その定義は「天才的な科学者、かつとんでもない発明品をもつ常識欠如の奇人」である。
ひと昔前のSFでの定番人物である。最近でもアニメにはまだ登場することもある。
マッドサイエンティストの典型というとスピルバーグの『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のドクだったり、ウェルズの『モロー博士の島』の見かけだけ正気の博士だったりする。
それにしても、そうしたマッドサイエンティストのモデルとなる実在の人物はいるだろうか、それがここでの問題設定である。
答えは、少なとも近代にはいない、だ。
タイムマシンカー=デロリアンの発明者ドクのモデルはアインシュタインだが、アインシュタインにはマッドな発明品がない。天才的ではあるが、発明がない理論物理学者なのだ。
厳密に言えば、冷蔵庫をジラードとともに特許出願してはいるが、冷蔵庫を発明してもマッドとはいえないだろう。
キューブリック監督の『博士の異常な愛情』に登場する車椅子の博士も核戦争先制攻撃論者で相当奇矯な科学者だが、なんら発明品がないので落第だ。ちなみにそのモデルはジョン・フォン・ノイマンらしい。ノイマンは電子計算機の生みの親とされる。だが現在の電子計算機はノイマン型と総称されるほど、役に立つ発明品であり、なおかつ個人で作り上げたわけではないので落第。
ニコラ・テスラがいるではないか。
確かに、テスラコイルはマッド性ありありだし、地震を発生させたとされる電磁発生タワーは(本当とすれば)完璧にマッドだ。
いかんせん、彼はサイエンティストではない。つまり、科学者=理論家でなければならないという条件を満足しないのだ。設計図すら描かないで製作するほどの能力があったテスラはマッド・エンジニアだといえる。
ヴィルヘルム・ライヒはどうだろうか?
かのオルゴンボックスの発明者で、フロイト理論とマルクス主義の折衷者だ。ライヒの見出したオルゴンエネルギーはライヒとその賛同者にしか感知しえないという欠陥があった。実用性が皆無のオルゴンボックスは、使えるシロモノではなかった。
今のところ言えるのは、テスラに到底及ばない誇大妄想狂であったということくらいだ。
そういう観点で近代の科学者を見渡して、これぞマッドな発明品まで創りだした天才的科学者はいないようだ。
しかし、古代に視野を拡げるとアルキメデスがいる。彼こそはマッドサイエンティストだというと奇妙に響くであろう。理論家としては申し分ない。古代最高の数学者だし、物理学者でもある。
その発明品はどうか?
技術史家のリプチンスキーによるとこの千年で最高の発明は「ねじ」だ。そして、ネジの父はアルキメデスだ。アルキメデスのスクリューは現在まで伝わっている。アルキメデスの螺旋はネジの原理の定式化であると言える。
何しろ、偉大な中国文明ですらネジを発明できなかった!(ニーダムもさすがにネジが中国の発明とは書いていない)
あの強大なローマ軍を翻弄した機械兵器(謎のメカ。テコの原理を十分に使い尽くしたであろうことは予想される)の発明家であり、シュラクサイへ攻め寄せるローマ軍の攻城兵器や軍船をなぎ払ったと伝わる。
さらには太陽光線を鏡で集光させて洋上の帆船を焼いたという伝説まである。末期もローマ兵士を「わしの図形に触れるな」と怒鳴りつけて、生命軽視と研究重視を貫いた。
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