円周率への日本人の思い入れというのは不思議なものだ。
通貨が「円」というのも国旗が「日の丸」というのも少々影響を与えるかもしれないが、それは明治時代以降だろう。
円周率のギネス記録で日本はいくつかレコード保持者を輩出している。
円周率の暗唱記録、8万桁を暗唱した男性がいる。それと、10兆桁まで円周率を計算した長野県の男性。
両者とも普通の民間人であるのが、なんともすごい。
ここまでの思い入れは何ゆえか?
日本独自の発展を遂げた「和算」を連想する方々も多いであろう。
これに関して、西洋数学=洋算との違いとして、二つあげておきたい。
第一に、著しく和算は庶民的であり高等趣味的なること。洋算は弾道計算や天体力学などに直結していたため、専門家もしくは一群の天才やエリートが関与して発展した。
誰でも和算家の門下となることができた。和算を余技とする階層は農民から町人、浪人や殿様までいた。和算は実利と無用な次元で発展し、数学パズル趣味に近いものがあり、算額のような神社への奉納物を媒体にしていた。暦学に計算は役立ったかもしれないが、社会貢献や技術計算とは無縁な次元で普及していたとしか思えない。
第二に、「円」が一大テーマであること。算額の多くは円の接触問題の解だ。そして、円周率の計算にも血道をあげていたのは、和算家の特色であろう。
名著『聖なる数学:算額-世界が注目する江戸文化としての和算』でも、その円への一途な打ち込みようは看取されるのだ。また、関孝和の算法は「円理」と呼ばれた。
この非実用の円周率計算に心血を注ぐという伝統は、まことに現代まで行き続ける、典雅にして愛すべき精神的特性だと自分は思うのだが、どうだろう。
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円に関しての、二宮尊徳の思想や日本の船名については、また、語ることもあろう。類似の社会特性として、アマチュア天文家や鉄オタの多さは、別の次元で語るべきことであろう。