サイエンスとサピエンス

気になるヒト、それに気なる科学情報の寄せ集め

フーコーの振り子

 ウンベルト・エーコの怪作『フーコー振り子』や上野の旧科学博物館のフーコーの振り子を思い浮かべる人は、相当の科学ファンであります。
ミシェル・フーコーではなくレオン・フーコーをここで取り上げるのは、ちょっとしたアナクロニズムを愉しみたいからです。
 フーコーナポレオン三世の時代にはフランス科学者の代表であったなど今では誰も知りもしないでしょう。アラゴーとルベリエが当代一の科学者だったのですね。
 フーコーは独学でその高みまで登りつめました。ナポレオン三世の引き立てもありました。
実はフーコーがこの振り子の緩やかな回転周期が地球の自転に関連しているとの主張に対して、同時代の誰もそれを証明できなかったそうです。今では大学でコリオリ力の例題としてフーコーの振り子が学生に出題されるのですけどね。
 「フーコーの振り子」は地球の自転を目に見えるものにしたのですから。ガリレオに断罪を下したローマ・カソリックへの重大な異議申立てであります。
 同じ時期にパリの守護聖人であった聖ジュヴィエーヴ教会を国家礼拝堂=パンテオンに塗り替え、その地で「フーコーの振り子」の実験を大々的実施したというのは意味ありげですね。

 地球の自転を観測する測定器は、現在では精妙な観測装置に進化している。光ファイバジャイロスコープである。これはサニャック効果(Sagnac effect )により、きわめて微小な回転速度を検出でき、地球の自転速度も計測可能であるという。
 回転系での相対論的効果を利用した巧妙な装置であり、フーコーの振り子古典力学の回転系での見かけの力(コリオリ力)を使った器具であります。

 ところでルベリエは、天王星の軌道の揺らぎから、摂動論を使って海王星の存在を数学的に予測した「科学の英雄」ということになっています。実はこれは計算の前提に過ちがあったことが判明しています。海王星の発見は力学の勝利でもなんでもなかったというわけです。

 地味なテーマの科学啓蒙書ですが、怪帝ナポレオンの時代が興味深く描かれてます。

フーコーの振り子―科学を勝利に導いた世紀の大実験

フーコーの振り子―科学を勝利に導いた世紀の大実験


 天体力学の勝利とは、とても複雑なものであることが手に取るようにわかりますね。ルベリエの間違い計算も自然科学の勝利でした。

ニュートンの時計―太陽系のなかのカオス

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