サイエンスとサピエンス

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カオス理論と統計学

 経済学や気象学など多数の原因が入り混じりながらマクロに運動するシステムでは、学説やモデルの検証という場合に、統計的仮説検定を用いることが多い。観測値をためてそれにモデルがどの程度あてはまるかを検定するのだ。定量的検証にはお定まりのやり方である。
 ところで、カオス理論は決定論的な方程式から初期値のわずかな揺らぎにより、システムが大きな変異をすることを提唱する。
 理論的には自明な数学なのだが、それを「検定」することは事実上不可能となる。モデルが決定論的であってもだ。観測値にモデルが当てはまるかどうかを議論することすら「無意味」だ。

 非線形性をもつダイナミックモデルが、真かどうか、尤もらしいかどうかを検証できないというのは、人類にとって手痛いダメージではないだろうか?
 経済や気象現象などでは、やむなく見かけの上だけの短期トレンドだけで政策や対策を立てるのだ。天気予報用のモデルでは大気圏をメッシュに分割して「線形化」して解いているが、それがいくら細かくしても「長期予報」はできない。
 反面、それが大きな規模の対策であればあるほど、無駄なものになる可能性が高まることになる。長期間の工期が必要なインフラ整備などがそれだ。
 ほんとうは砂漠化しているに洪水対策でスーパー堤防を建築するようなことが、至る所に起きる。現に起きていると思う。
 過疎化村落の維持のための防災費用などは、先が読めない無駄な公共投資となる。防災対策で地震か洪水か火山か竜巻か山崩れ、はてまた干ばつか雪害か、何が優先かが評価できないのだ(止めるわけにはいかないのがジレンマだろう)。

 統計学は最強だとかいう風潮だが、どうやらある種の意思決定には無力となる局面がありそうだ。ビッグデータも実は同じ弱みがあると思う。
 何が起きたかを理解できるが、何が起きるかについての予測力はほぼ統計学と同じパワーしかない。

 Mutemathの「chaos」テーマ音楽だね。


 普及版カオスの説明

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 実はこの人気本は隠れアンチ・ビッグデータ論であったりする。

統計学が最強の学問である

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 カオス理論は気象学から発生した。しかし、気象モデルとして実用化できない。予測力がないからだ。
複雑性とパラドックス―なぜ世界は予測できないのか?

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