サイエンスとサピエンス

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地震の基本対策は予知ではなく減災

 「長期」というものは現在の問題を考えるうえで誤解を招く指針だ...。嵐の時期に経済学者がもし「嵐のあとに海はなぎになります」としか言えないのなら、経済学者は無用の長物である。
                  ジョン・メイナード・ケインズ

 日本の地震学は東海大地震への対処に見られるように海溝型の大震災への「予知」に重点を置いている。経験知として海溝型大地震は確実に再来するのは事実であろう。
 しかしながら、その「事実」を重視するあまり、海溝型地震予知にあまりに力点を起きすぎているのではないかと疑いたくなる。
 東海大地震の予知が騒がれだしたのは1970年台からだ。かれこれ半世紀あまり経つが、その間それ以外の大地震が列島を襲来しているのだ。南海トラフに由来する大地震も同様だ。
 いずれは来襲するのであろうが、それが何時だかわかならない。それでいて、発生するまで待っており、「それみろ、震災が再来したろう」というのは芸のなさすぎというものだ。ケインズの長期予測する経済学者みたいなものだ。だからこそ、金をかけて研究しているのだという反論も聞こえてきそうではあるが。

 19世紀ころアメリカに雨乞い師というのがおり、雨を降らす力があると日照りに苦しむ農民をたぶらかして金儲けしていた。そのビジネスモデルは雨が降るまで雨降り儀式を継続する、という自明な理屈であった。
 
 他方、活断層型の地震は1970年からこのかた、多数発生している。
例えば、1980年から1999年までに27件ある。

千葉県北西部 (1980, M6.0) 三陸沖 (1981, M7.0) 浦河沖 (1982, M7.1) 茨城県沖 (1982, M7.0) 日本海中部 (1983, M7.7) 山梨県東部・富士五湖 (1983, M6.0) 三重県南東沖 (1984, M7.0) 鳥島近海 (1984, M7.6) 日向灘 (1984, M7.1) 長野県西部 (1984, M6.8) 日向灘 (1987, M6.6) 日本海北部 (1987, M7.0) 千葉県東方沖 (1987, M6.7) 三陸沖 (1989, M7.1) 釧路沖 (1993, M7.5) 北海道南西沖 (1993, M7.8) 東海道南方沖 (1993, M6.9) 日本海北部 (1994, M7.3) 北海道東方沖 (1994, M8.2) 三陸はるか沖 (1994, M7.6) 兵庫県南部 (阪神・淡路大震災) (1995, M7.3) 新潟県下越地方 (1995, M6.0) 択捉島沖 (1995, M7.7) 鹿児島県薩摩地方 (1997, M6.4) 石垣島南方沖 (1998, M7.7) 小笠原諸島西方沖 (1998, M7.1) 岩手県内陸北部 (1998, M6.2)

 こうした内陸型地震のもとになる活断層はいつ動き出すか予測できない。
 だいたい、過去の地震を警告した地震ネタ本で、ピンポイントで警告を発した学者がいるのだろうか?
 手元の二冊を例にとる。
 1985年の松田時彦の『活断層』には九州の頁があるが「別府万年山断層」が記載されているもののその危険性は触れずに別府湾の地震を指摘するのみだ。
 2002年の故・竹内均の編集の「Newton別冊 迫りくる大地震」の熊本の頁には活断層は書いてあるが、その過去データがなにも言及されていない。別府湾や天草沖のことが触れてあるだけ。
 地震学者とて人間なのだ。過去に起きていないことを予測はできない。
 とまあ、つまり、歴史的な活動記録がない活断層は危険性を無視されてしまう傾向にあるといってよいだろう。
 その点、海溝型の地震はかなり昔から記録があるので、再来するという警告は容易なわけだ。
 他方、活断層地震についてのタイムリーな予測は困難だということだろう。

 であるならば、減災対策に万全を期すしかないのではないか?
いつ来るか分からない地震への対策は「予知」ではない。
 やはり減災なのだ。つまり、二次災害の低減や被災者の生活復旧を迅速化することだ。

 どうせなら、地震被災時にその土地の地域コミュニティのまるごと受け入れとか、経済活性化になり脱カーボンにもなり、地域活性化になるスマートな減災を考えるべきだろう。


【参考書】
 地震学のあり方の疑問を元地震学者が追求する。

「地震予知」はウソだらけ (講談社文庫)

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 経済、気候変動、疫病の流行での予測の困難さを最新の科学理論で説く。非線形性、カオス、複雑性などが主な論拠になる。

明日をどこまで計算できるか?――「予測する科学」の歴史と可能性

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 古き良き時代、あるいは予期時代のイデオロギーである地震予知の典型書。自分もお世話になったけど。
地球科学は万能であるドリームを想い描いていた時代だ。それから、もう半世紀近くになるのだ。力武さんの学会での記憶はカオスに関する力武モデルだけなんじゃなかろうか。

地震予知論入門 (共立全書 209)

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 地震学者は詐欺師でもペテン師でもない。だが似てはいる。

詐欺とペテンの大百科

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