サイエンスとサピエンス

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オダム『基礎生態学』を読む

 故あってオダム『基礎生態学』(1991)を通読した。古いけれども自然環境についてワイドレンジで包括的な観点から、議論を積み上げているのは古典の名に違わぬ。

 オダムの生態学は人間中心主義の科学であると断言できる。生態学は、いつの間にか人類がその生存環境を破壊しないでいるための方策の工学になりつつあるのだ。
「第三章生産力の概念」を読むといい。生物群は植物による「一次エネルギー生産」に依拠している。緑色植物が太陽光から生み出すエネルギーが生態系の原動力だ。
人類はエネルギー補助を特定の作物につぎ込むことで「緑の革命」を起こした。1900年から1970年の間に収量は10倍となっている。
 しかし、それは次のようなエネルギー補助の原則によるものであるとオダムは指摘する。

収穫を2倍にするためにエネルギーを10倍にする必要がある

 このような事実から、90年代においてバイオエタノールのガソリン代替がまったく馬鹿げた行為であることを見抜いていたのは流石である。
 また、こうも指摘する。単作化を進めたのは西洋植民地主義グローバル化なのだけれども。

作物の多様性を増し、多毛作と多年生種の利用を考慮することは生態学上の常識である

 生産力が最大となる地理的ロケーションは「汽水域の一部」である。沖積平野だ。
次いで湿潤な森林である、草原と大陸棚水域が続く。
 その沖積平野を破壊するものは大都市であるとことば鋭くオダムは指摘している。

大都市は食物、水、大気を供給し多量の廃棄物を処理しなければならない近郊地域の寄生者となっている。

 ガイア仮説(ラブロックに加えてリン・マーギュリスも参加)やr淘汰・K淘汰などの社会生物学、ローマ・クラブ報告など関連諸分野を糾合し、総体として危機感に満ちた書となっている。400頁のすべては「人類の生存に適した環境の立て直し」という目標にベクトルが収束している様はまことに見事だ。*1

 ミクロな視点から生活営為を見直し、グローバルな視点で経済活動を立て直すには、こうした書物を社会人の必読とすべきであろう。
 ややもすれば人間中心主義であるのが気にかかるが。

 Odum教授の謦咳に接する映像

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 オダムのこの本は社会生物学や地球化学の成果も取り入れた全体論的で人間中心主義の学を体現しているだ。

基礎生態学

基礎生態学

*1:残念ながら日本人でこういう立論が出来る人はいない