サイエンスとサピエンス

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今を生きる古代宗教ジャイナ教

 ジャイナ教は日本ではあまり知られていない。
 現代のインドではヒンズー教が圧倒的であるが、それでも500万人の信者が残る古代宗教である。「古代」というのもブッダと同じ時代のジナ(マハーヴィーラ)により創唱されたからだ。ついでに言えば南方熊楠翁は至極まともな宗教であると高評価している。
 その教えの五戒は高潔で簡潔であり、ガンジーにも影響を与えている。

不殺生(アヒンサー)
真実語(不妄語、サティヤ)
不盗(不与得、アスティーヤ)
不淫(ブラフマチャリヤ)
無所有(不所得、アパリグラハ)


 面白いのが渡辺研二氏による仏教との対比である。
 ブッダとジナの生年。紀元前444年と紀元前463年。出身地はビハール州で階級はクシャトリア。生まれるときに母親は受胎告知の夢をみる。妻の名前はヤショーダーとヤショーダラー。出家時の年齢は30歳と29歳。悟りの年齢は42歳と35歳。死去した場所はビハール州。寂滅の時は紀元前372年と紀元前383年である。
 ほぼ同時代人。仏教はその後興隆して思想的内容がどんどん新規なものが追加になる(富永仲基の加上である)が、ジャイナ教はほとんど思想的内容は変化しなかった。その替り、インド亜大陸で残存勢力として継続している。
そのシンボルを示す。

この欄で取り上げるのにはひとつ理由がある。教義の本質部分に「数学」がハマっていることだ。
 ゴンタによれば、

数を甚だ愛好し、計算は幾何学的図形を用いて論証した点を特徴としている。自らを思惟できる七線分の説の創始者と呼んでいる。ある数の空間に一定数の原理を配分して、その最大数と最小数を求めたりしている

 七線分の説とは七つの真実(タットヴァ)のことであろう。
 しかも、その世界観に「原子説」が含まれる。霊魂と物質による二元論。その物質とは原子からなるとしている。つまり、原子説は宗教と相容れないわけじゃないということだ。
 こんな宗教家は少ない。ほとんど皆無であろうから、もう少し注目されてもいいのだ。少なくとも現代の数学者の宗教選択として、ジャイナ教は候補にしてもいいんじゃないだろうか?

 後世に同名の数学者マハーヴィーラを輩出しているのも頷ける。彼は専門の数学者(おそらく史上初)であった。『ガニタ・サーラ・サングラハ』(Ganita Sara Sangraha)はジャイナ数学の最高峰とされる。その宗教数学はピュタゴラス学派と対照されてもよいだろう。




【参考資料】

インド思想史 (岩波文庫)

インド思想史 (岩波文庫)

ジャイナ教入門

ジャイナ教入門

非ヨーロッパ起源の数学―もう一つの数学史 (ブルーバックス (B-1120))

非ヨーロッパ起源の数学―もう一つの数学史 (ブルーバックス (B-1120))