国民総生産GDPは国力や経済力を測る尺度を超えて、国家国民の生活の豊かさの象徴にまで祭り上げられた感がある。
そこまでの意味があるだろうか?
経済学者ポール・サミュエルソンなどは20世紀最大の発明などと主張している。重要な尺度であるのは間違いはあるまい。
豊かな国になるべく「離陸」するまでは意味のある指標かもしれない。言い換えるなら、新興国向けの経済政策のKPIならGDPなのかもしれない。なぜなら、新しい財の形成だけがカウントアップの対象になるのだ。
そして、成熟社会で当たり前なリサイクルや省エネな活動はGDPを減少させるか、そもそも無視されるような経済活動になるからだ。かつて日本の家庭であったような母親から娘に晴れ着の和服を継承するような成熟した伝統はGDPとは無縁なのだ。
これは、偏り過ぎで、一極集中すぎるのではないか?
GDPだけが経済の柱になる。経済成長一神論というべきかもしれない。
「国境内の労働力及び資産を用いて新たに製造されたモノ及びサービス価値の合計」という尺度になにがカウントされているか、簡単な検証をしたい。
GDPのおさらいから。
Y= C + G + I + Ex - Im
左辺のYが国民の経済活動のグロスサムになる。Cは国民の消費、Gは政府の支出(無駄遣いも含まれる)、Iは投資であり、Ex - Imは輸出と輸入額の差分である。
結論からいうとGDPの上乗せ分には、余計なもの過剰なもの無駄なものが多い。私見では「リスク」が高い資産流動的かつ個人主義的傾向が強い経済生活パターンほど(国民一人あたりの)GDPが高くなる。
無駄なものの典型から入る。
健康診断や家庭用常備薬の負担である程度の健康が維持できる国よりもアメリカのように高額医療をどんどんつぎ込む国はGDPが高くなる。それほど必要がないのにMRIを毎回処置されるようなお国ぶりであるのに、平均寿命はキューバにも負ける。
そんな高額医療と薬漬け、しかも、医療保険に入らないと平均的な家庭でも破綻するという。
最近の新薬の傾向はプラセボ効果と効果の差が低い高価な薬を、医療機関が自分の利ざや稼ぎのために処方する傾向がある(アメリカではこれが強い)。また帝王切開の率がアメリカは高いのだが乳幼児死亡率は日本より高い。
持続可能な経済とも矛盾することが多い。
例えば、リサイクルが行き届くとGDPは低下する。なぜなら、販売手数料しかGDPにはカウントされないからだ。モノを大切する、知人と衣服を交換する、ゲームをリサイクル店から購入する、お風呂の水を家族で共有する..それでGDPは低下してゆく。
つまり、マータイさんが褒めた「もったいない」ライフスタイルはGDP拡大とは無縁どころか、敵対するのである。
高価な消費財の無駄遣いはGDPを高める。燃費の悪いクルマを一人きりで乗り回すこと、ちょっとした旅行ですぐにエアラインを使うのが高度成長の秘訣だ。ちなみに航空業界は10年毎に二酸化炭素排出量を倍増させている。1944年のICAOの国際協定で航空燃料への課税が禁止されていることが一つの障壁だ。
燃費の悪いマイカーと過度のエアライン依存はGDPに貢献すること請け合いである。路面電車と地域鉄道はGDPにはそれほど貢献しないのだ。
交通事故や災害はGDPを高める。自動車事故は最大の消費行為でありGDP最大化論者の賞賛する行為である。自動車会社、保険会社、ロードサービス、医療機関その他もろもろの関係企業に多大な恩恵を与えるのだ。
火災や犯罪の多発も同様である。人びとは恐怖に脅迫されて保険に加入し、警備会社を雇い、防災防犯製品を購入する。
つまり、「リスク」が高ければ、脅迫型の消費活動が高揚するわけである。GDPを拡大するには危険社会にすればいいという極論も生じるわけだ。
家庭内や親族内の相互の贈与やサービスの無償供与はGDPの敵である。子どもを好意で預かったり、余り物をわけたりするような行為はGDPを著しく損なう。すべて金銭ずくで生活するのが「経済大国」のライフスタイルなのだ。
鼻をかむのも、ドアを開けるのも、靴紐を結ぶのも有料サービス化すると「経済大国」になれて、裕福で幸福な社会になると先進国の首脳は唱えているのだ。
伴侶の家庭内労働(シャドウワーク)も有料化して、お互いに帳簿をつければ経済大国になれるわけだ。
事実、日本人はそうした路線を突き進んできた。手洗いオムツを使い捨て紙おむつにし、おすそ分けを拒んでケータリングサービスに差替えた。
自分でできることをどんどん外注化せよ。それがGDP尺度で評価されるには必須になるのだ。
お隣の半島では海に向かって高価なミサイルを乱発している。これなどもGDP高揚に貢献しているのだが、国民は飢えたままである。軍事を含む公共部門の出費は価値を産まなくともGDPアップになる。誰でも使わぬ公共施設や道路や(実務で使わない)高級兵器をドンドン造るとGDPホクホクなのだ。中国やアメリカのGDPはこれが大きい。大半の国民には嬉しくもない公共投資だろう。
GDPで経済活動を評価するのは環境と福祉の時代にはふさわしくない。浪費を増長させて経済をイソップ童話のカエルの王様のようにパンパンに膨らませるだけなのだ。
成熟した国家に似合わないと経済学者が提言しないのは何故なのだろうか? まことに不甲斐ない。
こんな不合理な尺度を唯一の評価法としていつまでも使い続けるというのは、いかがなものか。
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この書では成長を中心に論じている。それにはGDPだけを分析することになるのだ。GDPがマクロ経済学のモデルの至高の従属変数なのだ。
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