作物に欠かせない元素は窒素とリンである。これらは肥料として常時農地に補給されている。肥料の三大要素はこれにカリウムを加えている。現在、リンの供給源であるリン鉱石の枯渇が懸念されているらしい。
窒素はこれまでも何度か言及したハーバー・ボッシュ法により大気から無尽蔵に取り出し可能となった。これが20世紀前半の偉業であるのは言うまでもない。70億という人口成長の半分は空中窒素とリン鉱石のおかげなのかもしれない。
N2 + 3H2 -> 2NH3 (ΔG = -8 kcal/mol N2; 450 ℃、200 atm)
その反応条件は自然界(地表)にはありえない高温高圧で窒素からアンモニアを取り出している。
ここではマメ科に寄生する根粒菌の驚異的な能力、空中窒素固定を振り返りたい。高校の生物教科書にあるように、これらの原核生物、つまりClostridiumやAzotobacterたちがある酵素を保有していることにより可能なのだ。生成されるのはアンモニアである(我ら、動物の排せつ物である尿素や尿酸はその結果なのだ)
それがニトロゲナーゼだ。ハーバー・ボッシュ法出現以前にはマメ科植物栽培により窒素を地中に取込しかなかった。それを経験的に知っていたのは古代ローマ人と中国人だけであったという。窒素循環は19世紀のヨーロッパ化学者たちにより解明されたわけであり、それを知っているからこそハーバー・ボッシュ法が開発されたというわけだ。
ここで共有しておきたい、驚きの感覚は二つある。
原核生物たちたちがニトロゲナーゼのような複雑で高度な化学物質を作り出したこと。その化学反応は窒素分子1個を生み出すのに1.2秒間かける。強力な窒素分子の電子結合を多大な自由エネルギーを費やして実現する(だからマメ科植物はそのエネルギー源を提供し、これらの原核生物を保護している)
その構造の骨組みは超高層ビルの骨組みのようでもある。これが一つ。
※画像はWIKIより
地上に存在するニトロゲナーゼはすべて合わせてもバケツ一杯くらいだ。地球の生物はそれによって窒素循環を何十億年と続けてきたわけだ。これが二つ目だ。
これほど微視的な生き物たちがどれほどクリエーティブなことか。
微小世界の神々たちがいるとすれば、こうした無私無償の活動をする微生物たちなのかもしれない。
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