サイエンスとサピエンス

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失敗国家の拡大 現代文明は周縁から崩れてきている

 内戦や政治の腐敗などによって国家機能が喪失した国々を失敗国家(Failed state)または破綻国家と呼ぶ。
 世界の国々における失敗国家の進行状況のレポートしているアメリカの「The Fund for Peace」というNGOのサイトだ。そのNPOで虎豹している数値化した年次報告がそれなりの権威があるようだ。
 その指標は次の12個を数値化(悪化するほど高い)総和をとる。それを「脆弱国家指標」と呼ぶ。

C1: Security Apparatus C2: Factionalized Elites C3: Group Grievance
E1: Economy E2: Economic Inequality E3: Human Flight and Brain Drain
P1: State Legitimacy P2: Public Services P3: Human Rights
S1: Demographic Pressures S2: Refugees and IDPs
X1: External Intervention

 自分もアンティアン・センの『貧困と飢饉』やダールの『現代政治分析』などから学んだのだが、政治的に失敗した国家は同時に経済的にも失敗している。それ故、飢餓や疫病それに暴動やテロなどの無政府状態が頻発するようになる。
 では、逆に「失敗していない国」とはどんな国か?
 答え「民主主義国家である」
 だが、メキシコなどやジャスミン革命を選んだ国々も民主主義に向かおうとしていたのではなかろうか?
 それらの国々の多くは政治的にも経済的にもものの見事に失敗しているではないか。
 それ故に、「安定した」という形容詞が必要になるだろう。実際に「失敗していない国」の下位、すなわち、成功した国々には北欧諸国やスイス、オーストラリア、ドイツなどが含まれている。
 つまり、安定した民主主義国家が一様に高い生活レベルを維持しているのは、偶然ではないようだ。安定した民主主義国家で貧乏な国は一つもないとほぼ言える。

 世界全体はいま、どういう方向に向かっているかを総括的に知るには「脆弱国家指標」が劣位にある国家群がどうなっているかを可視化するのも一助となるだろう。
言い換えると「破滅の縁」をうろついている国々を見るのだ。
 ここでは脆弱国家指標=89以上の国家群が2006年と2017年でどうなっているかを地図表示してみた。
 「89」というのは最近のエジプトやバングラデシュなど問題含みの国家のもつ脆弱国家指標の値である。人為的であるが、そこで切れ目をいれて、10年間の状況をグローバル鳥瞰視してみよう。

2006年の89以上の脆弱国家グループから示す。赤い国々がそれである。

およそ28カ国である。

これが今年、2017年になると。40カ国となっている。アフリカは赤死病に冒されたかのようだ。とりわけサハラ砂漠の両岸が崩壊しつつあるように見える。もはや欧州の植民地支配という後遺症にすべての罪をなすりつけることはできないだろう。

 アフリカはますます負のスパイラルに落ち込み、中東に飛び火しているというのが概評なのだろう。ベネゼエラもきな臭くなっているし、来年以降には経済的な退潮が目立つ南米も加わる可能性が高い。
アメリカの安全保障プロジェクトのA.ホーランドによれば、ナイジェリアのテロ活動集団ボコ・ハラムも干ばつの結果その勢力を強めている。フィリピンは台風被害などにより「新人民軍」が生まれ無秩序状態に一時陥った。
 百万人の難民を流出させたシリアの内戦は農政の失敗と水不足により発生したとされる。
 いずれにせよ、世界は周辺国家から腐食が進行中であり、その速度は落ちることはない。安定した民主主義の国々はそれら破綻国家の犠牲のピラミッドのうえにあるだけ、なのかもしれない。



貧困と飢饉 (岩波現代文庫)

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現代政治分析 (岩波現代文庫)

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国家は破綻する――金融危機の800年

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 昨年の日経サイエンス8月号の『気候変動戦争を回避せよ』は最近の緊迫した国情をレポートしている。
中国はアフリカ諸国への投資を加速させているが、環境の劣化を進行させるのに一役買っているだけのようだ。


【2017年と2006年の失敗国家ワーストリスト】