米国に傲岸不遜で全体主義的な支配者が出現する、そういった未来小説はいくつかある。しかしながら、新聞やテレビなどのマスメディアを敵にまわし、大衆に直接SNSでアピールする政治家の出現はそうした空想小説を越えてしまった感がある。マスメディアに大衆(マス)が背を向けている現実がある。新聞や雑誌などを読むのはエリート層とか知識人であり、TVニュースにチャンネルを回すのはグローバル化などに関心がある経済的に活発な層やリベラル派だけになったのかもしれない。
米国IT業界は、総じて現大統領の政策や言動に反発しているが、2つの点でトランプ氏の台頭に貢献している。
1)Twitterという直接メディアを提供していること
2)米国を分断する格差を生み出す原因、経済のグローバル化の原動力となったこと
いずれにせよ、マスメディアが米国民の連携の媒体となっていないことは異様なことに思える。
米国が分断されているのは事実であり、それは以前から衆知のことだった。堤未果の米国貧困レポートの幾つかは貧困トラップの増加を報じ、それに対比されるザッカーバーグやグーグル創設者たち、イーロン・マスクなどの数ある米国サクセスレポートを紐解けばいいだろう。
やせ細る中間階級、増える貧困層、短期間で成功した投資家や起業家たち。それが米国なのだ。しかもSNSというITの生み出した新メディアはこれらの人びとを繋ぐ役目を果たさず、分裂させる方向に機能していただけなのだ。
これは注目すべきことに思われる。「フィルターバブル」という言葉がある。新興メディアであるWebやSNSは個人情報をもとにその個人の好む情報を選択的に提示する。つまりは個人の偏向を増幅する情報しか、見聞きしなくなる。
同じサイトを閲覧してしても異なる情報が提供されているのは誰しも気づいていよう。サブリミナルを目に見える形で再生して、「自己実現」を増長するのがネットの仕掛けだ。それを「協調フィルタリング」という。個人の願望を充足し、欲しい情報やニュースしか見えなくなる。自分と同じ意見やグループとしか交流しなくなる。オルテガの「甘やかされた」大衆の再来であろう。
このような世界に再臨するのが、古典期アテナイ崩壊を招いたクレオンのような迎合主義者たちだ。そう、いわゆるデマゴーグはつねに大衆迎合的であり、自己アピールと宣伝をその政策となす。一貫した政治手法などはない。分断され不安定化したネット社会に相応しい人物が現大統領なのであろう。
IT業界が生み出した協調フィルタリング社会は人びとを統合せず、党派に分断してゆくわけである。細分するのではなく分かりやすいイデオローグに靡くように自己組織化が進行した結果が「トランプ大統領」なのだ。
良くも悪くもインターネットの政治的帰結のひとつである。
ちなみに、経営危機が伝えられるTwitter社が倒産したら、どうなるだろう?
【参考資料】
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民主政の末期に現れたクレオンの様子をヴィヴィッドに伝えるのが古代史最高の史家ツキジデスだ。
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