サイエンスとサピエンス

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サンゴの消滅からの随想

 珊瑚礁を造り出したのはサンゴ虫だ。サンゴ虫は海水中の二酸化炭素から炭酸カルシウムをつくりだし、それを蓄積する。その何百万年の営為が珊瑚礁となる。
 よく知られているようにサンゴの死滅が沖縄やグレート・バリア・リーフをはじめ世界中で拡大している。サンゴが死滅するとは二酸化炭素を固定化する担い手が姿を消すことを意味する。
 ところで、世界の大都市を形づくるのに石灰岩は不可欠な材料だ。セメントは石灰岩を砕き粘土などを混ぜて製造される。

 石灰岩は何処から来たのだろうか?
 それは生物由来なのだ。サンゴ、層孔虫、石灰海綿・有孔虫・腕足類・コケ虫・二枚貝。巻貝・頭足類・海ユリ・ウニ・環形類や植物の藻類などが炭酸カルシウムを合成し沈殿してくれた遺産が石灰岩なのだ。
 海水中の二酸化炭素(炭酸イオン)をカルシウムイオンから、ほんのわずかな努力で炭酸カルシウムを生成できる。上記の動植物は巧みにその化学特性を利用して自らの骨格や外殻(貝殻)などに使いこなしてきた。
 その結果、生み出された石灰岩は地球上の全堆積岩の約10%になるとも推測されている。
 そして、現代文明は石灰岩を食いつぶして、自分たちの住居=外殻として、地上の巨大な蓄積物に作り変えている。食いつぶしているとも言えなくもない。
 例えば、秩父武甲山珊瑚礁性の石灰岩を大量に東京メガロポリスに提供した。


 サンゴが死滅しつつある今日、メガロポリスという炭酸カルシウムの集積物が地表に醜悪な塊となりつつある。
 現代文明の資源は、そういうやり方で過去の生物学的濃縮物を不可逆的に消尽されてゆく。
 金持ちのドラ息子が親の蓄財を後先を考えずに使い込んでいるのによく似ている。

【参考書籍】

人類が変えた地球: 新時代アントロポセンに生きる

人類が変えた地球: 新時代アントロポセンに生きる