「社会的促進」という社会心理学の研究分野がある。普通は人を対象にした実験と理論的解釈が社会心理学の主たるフィールドだ。しかしながら、研究者は独自性を追求してついには禁断のワカランチン・ゾーンに足を踏み入れてしまう。
その特異な実験例が「Social enhancement and impairment of performance in the cockroach.」(1969)だ。
まずは「社会的促進」の定義から。こちらの心理学用語集からの引用。
作業や課題を遂行している時に、そばに他者がいることで、その作業や課題の成績が高まる現象
であるならば、ゴキブリに競争をさせて他のゴキブリに観戦させるというのもアナガチはずれているわけではない。それはそうだ。
この論文の著者であるザイアンスはミシガン大学の心理学者である。
その実験の手際よい要約を引用しておこう。
メスのゴキブリにレースをさせた。ザイアンスはストツプウオツチで慎重にタイムを計り、ミニチュアのスタジアムまで作った。
このスタジアムは縦横高さ各20インチ(約50センチ)の透明のプラスチック製の立方体で、この立方体をまっすぐ横切るように透明のチュープでできた走路が設置されていた。走路の端にはスターテイング。ボツクスが、反対端には暗くしたゴール・ボツクスが取り付けられた。さらにザイアンスは走路の両側に透明のプラスチックの箱(別名「観客席」)も設置し、これらの箱のなかはゴキブリ(閉じこめられた観客)たちで埋め尽くされた。
さて、ここで感じる違和感はなんであるか、諸君は明確に言い当てできるであろうか?
疑問は色々あるだろう。競争者のメスゴキブリたちが「課題を遂行」しているか?彼らにその「意図」があるだろうか。
観戦者のゴキブリたちは競争者とどのような相互作用をしているのであろうか?
フェロモンでも交換しているであろうか。観戦者が密集しているだけで攻撃性を高めているだけかもしれない。作業の成績とは早くゴールに到達することなのであろうが、この攻撃性からの逃散を測っていだけなのかもしれない。
つまりは昆虫に対してむりやり擬人化をして、「心理状態」を擬似的に構成しているという疑いがあるようだ。
そうはいっても、こんな面白可笑しいスタジアム設備を整備して、ゴキブリたちを参加させて、アスリートを演じさせているのは頭がさがる、ような共感も覚えなくもない。
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リアルなゴキブリレースの観戦者は人間どもしかいないようだ。なんか色んな国々でゴキブリレースは開催されている。人気はあんまし無いようだ。