「フェルミパラドックス」はブログで何度か話題にした。フェルミが天を指して「どうして彼らは姿を見せないのか」とした例の異星人問題だ。地球の文明が特別でないならば、宇宙のどこかで異星の技術文明の存在が観測されてもおかしくないはずだ。だが事実としてはその痕跡がない。
あるいはその問いが早すぎたのかもしれない。
宇宙に向けて可視波長域外での観測はようやく始まってから80年くらいだ。1940年に電波望遠鏡が生まれた。それに無線放送も20世紀の初頭1920年に最初の商用放送であるラジオ放送局KDKAが開局したのだ。
つまり、100年も経っていない。微弱な信号をできるようになったのはSETIの仕組みからだ。アレシボ天文台のオズマ計画だ。1960年に天文学者フランク・ドレークがアレシボ天文台を活用して開始からなので、これも70年くらい。
そのSETIで一回限り、「 Wow! シグナル」なるものを検出した。何しろ一回限りなのである。異星文明存在の結論が出ようはずもない。
そのSETIプロジェクトも責任者ドレイの老いとともに終末を迎える気配だ。資金提供者がいなくなっているからだ。
今の流行りは太陽系外惑星ハンティングだ。続々と太陽系以外の惑星、地球型も含めて、存在が観測されている。
もちろん生命の存在はありえるのだろう。かと言って、地球外文明が見つかるわけでもないだろうし、その星に行けるわけでもないので生命の有無も可能性だけの議論だ。ハビタブル・ゾーンにあっても可能性が高まるだけのこと。
というわけで、ドレーク方程式に立ち戻る。
このLがフェルミパラドックスでの鍵になるとされる。「知的生命体による技術文明が通信をする状態にある期間(技術文明の存続期間)」の意味だ。他のパラメータよりクリティカルな変数がLということになりつつある。
例えば手元の『人類の住む宇宙』などによるとL=10000年とすると技術文明間の平均距離が3000光年だという。N=1000個になる。
であるなら地球文明の観測の窓は100年しか開いていないので、フェルミパラドックスはまだ、パラドックスではないのかもしれない。
また、最近の悲観的予測では地球文明ではL=200年とする意見もある。例のシンギュラリティや温暖化の行末からの見解で、文明などつかの間存在という議論だ。となるとご近所の文明は平均10000光年の距離。お便りが届く前に消滅というわけで、フェルミパラドックス以前の状態ということにもなりかねない。
これを我らの文明に当てはめると、あと100年ほどの技術文明維持しか期待できないことになる。
仮に異星文明との通信が開いても、信じる人はほとんどいないだろう。
それは予想できる。偽物説、陰謀説、ノイズ説、なりすましメール説など諸説紛々で有耶無耶になるのは確かだ。再現可能な通信だとしてもそうなるだろう。なぜなら、通信内容の「意味」が理解できないだろうから。
もし、異性文明間でワイヤレス・インターネットみたいな仕組みがすでにあり、たまたま、人類がそこに接触するかもしれない。その時何が起きるか?「マルウェア感染」が最初に起きるんではないだろうか?
2進数が普遍的であるわけではないので地球のインターネットは守られているだけなのかもしれない。
冗談はさておき、やはり、地球に公式に訪問してもらわないと「ファーストコンタクト」かつ公的認定はされないのだろうと思う。でもそれは限りなく難しい。
そこに平均距離1万光年がたちはだかるのだ。
【参考文献】
系外惑星観測が開始された頃のSETIの有り様などがわかる。アメリカがかつてはこういう先駆的なことのパイオニアだったのだが。
- 作者:リー・ ビリングズ
- 発売日: 2016/03/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
専門家集団のまっとうな見解はこの本で。
フェルミパラドックスについても諸説紛々。地球人以外見つからん理由が50通りもある。
広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由―フェルミのパラドックス
- 作者:スティーヴン ウェッブ
- 発売日: 2004/06/01
- メディア: 単行本
いやはや上記の本のバージョンアップが出版された。なんと50から75通りに増えている。読者からの意見や系外惑星発見の影響もあるのだろう。
- 作者:スティーヴン・ウェッブ
- 発売日: 2018/05/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
ファーストコンタクトの認定は映画のような状況でないとなされない。でも、この映画でしめされたように相互理解は困難を究めるだろうね。このテッド・チャン原作の映画は「ET」のようなファンタジー映画ではない。言語や意識について深く考えさせてくれる。
- 発売日: 2017/10/18
- メディア: Blu-ray