サミュエル・バトラーは「ニワトリは卵が進化するための手段である」とダーウィンの進化論を皮肉った。バトラーの発想はユニークだし、そうした観点の逆転はしばしば科学の進歩にもつながっているという前提で、以下の議論を味わっていただきたい。
ウイルスや細菌の一部が宿主の行動に影響を与えて、自己の繁殖機会を増やそうとする事実は近年、多くの事例が集積されてきた。
ホスト(宿主)の集団行動を微生物がコントロールする可能性があると想像してみよう。一匹だけではなく、集団行動を促す可能性だ。その集団行動は微生物が繁殖することにつながる。盲目的選択だから、集団行動の結果が必ずしも微生物の繁殖にならないことは多いだろう。しかし、盲目的であるがゆえに何度も試すだろう。
ホストの定住域を抜け出し、移動に駆り立てるような集団行動もありうるだろう。
ところで、国際宇宙ステーション(ISS)には細菌が繁殖している。
ちなみに、船内はどんな臭いが漂っているだろう? 生ごみ臭と体臭の入り混じった臭いだ。それもそのはず、足の臭いの原因である枯草菌が最多で検出された。糞便微生物もにぎわっていた。人体由来の微生物の住処だったわけである。
こうして、我々は大慌てで次のような暴論に至るのだ。
宇宙船は微生物が他の天体への拡散のため、人類を使役して組み立てた移動カプセルである。
サミュエル・バトラー的な味わいのある棘のある逆説的指摘だろうと我ながら思うのだが、これは孤立した宇宙旅行への批判というわけでもない。
実際、技術文明史の大家のルイス・マンフォードは宇宙船を自然と切り離された人工胎盤、あるいは機械の一部でしかないと論じていいた。また、別の観点であるけれどNASAで研究していたジョーン・ヴァーニカスによれば長期の宇宙旅行が人体にもたらす影響はいいものが何一つないようだ。
特定の微生物の巣窟となったISSの臭い環境。はてはて、人類の夢であった宇宙開拓はいったいどうなることやら。