サイエンスとサピエンス

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文化人の蔵書の行方

 近著のコラムから、「文化人の蔵書」を紹介しよう。

 代表的な文化人について蔵書がどうなっているかを調べたので、報告しておこう。

 作家井上ひさしの蔵書は現在、山形市の図書館「遅筆堂文庫」に寄贈されている。総量は約三万冊である。
 珍しいケースとしては、東京都町田市にある白洲次郎・正子夫妻の旧邸宅「武相荘」である(「ぶあいそう」という名前がいい)。ここは家屋と庭園が丸ごと一般公開されており、人気のスポットでもある。白洲正子の書斎はそのままに保存されており、和風の落ち着いた仕事空間のなかに調和した書籍が正子の生前のままに並べられている。

 同様にミステリーの研究家でもあった小説家江戸川乱歩の蔵書は立教大学の管理のもとに「旧江戸川乱歩邸」で拝観できる。蔵書は約四万冊である。
 SFからは作家・翻訳者・テレビディレクターであった野田昌宏ガチャピンのモデルという噂もある)を代表として選ぼう。野田昌宏文庫は早川記念文学振興財団に寄贈されている。SFとNASA関係だけで1万冊はあるようだ。最近一般公開されだした。
 そういえば、先年物故したトンデモ系文化の研究家志水一夫の書籍(およそ四万三千冊)は明治大学に移管された。その蔵書の収納法はカオス性を存分に発揮したものであったそうだ。短い生涯にここまでよくぞ集めた。
 歴史小説分野では、中高年の男性の知的アイドル司馬遼太郎の蔵書は六万冊だという。東大阪市司馬遼太郎記念館でかいま見ることができる。
それにしても六万冊は流石だ。古書を店丸ごと買い付けたのは本当かもしれない。
 南方熊楠の蔵書は洋書1762冊、中国書230冊、和古書323冊、和書1497冊で、全3812冊ということであるが、これ以外に大量の雑誌バックナンバーがある。とくに抜書きノートは海外放浪時代の52冊と田辺時代の61冊からなるもので、彼の膨大な記憶のエッセンスが詰まっている。和歌山県田辺市の「南方熊楠顕彰館」に保存されている。

考現学路上観察などユニークな民俗観察を始めた今和次郎(こんわじろう)の図書約5,600冊は工学院大学今和次郎コレクションとして保管されているのはウレシイことだ。
 
 他方、先ごろ亡くなられた知的生産術の開祖・梅棹忠夫民族学博物館にその蔵書の管理を委ねた。雑誌を除き二万三千冊だとのことである。国有化することでいろんな雑事から逃れたことをよしとしていたもようである。

情報管理論

情報管理論

 蛇足:何にせよ自炊か他炊してあれば、もっと利用しやすかったのではあるまいか。少なくとも一市民としては遺族に伝授しやすいことは確かであろう。