史上初の名前が残る女性科学者ヒュパティアが主人公の映画。つまり、ローマ時代のアレキサンドリアが舞台というわけです。それが映画『アレキサンドリア』(原題はAGORA)です。
ちょっと感動した超大作です。意外にセットは作り込んでいてCGだけではないのがgoodでした。群集もほんとに大人数動員してました。アレキサンドリア図書館のファンも喜ぶくらいリアルで、建造物もインテリアもしっかりとしてました。
何でもかんでもCGというのは、最近食傷気味だったんで。
ヒュパティアの悲劇は西洋世界では有名なので、ここでは英国文学の『ハイペイシャ』(キングスレー)があることだけを付け加えておきます。
映画は、ほぼその史的事件を忠実になぞってはいます。
数学史的な興味で脚本と歴史的事実との違いを注記しておきます。
キリスト教がローマ帝国により公認されたこの時代には、数学的な創造力や天文学での新発見のパワーは枯渇していました。
新プラトン主義者たちは気息奄々でした。伝統をほそぼそと受け継いでゆくのがやっとこさ、そんな状態です。ヒースのギリシア数学史によれば、ヒュパティアはディオファントスの注釈者であり、天文学にも詳しかったようだ。
ヒュパティアは、なるほど後世に名を残すほど有能な学者ではありましたが、映画シナリオでのような時代に先駆けた劇的な発見はなかったのです。
そもそも、この時代の観測精度では楕円軌道か円軌道かを区別できるほどの惑星観測をできなかったのです。
なので、科学史的には贔屓の引き倒しの感がなきにしもあらずです。
しかし、女性科学者を古代ローマに配して、無知の時代へのあえかな抵抗と最後の知性の光芒を描き出したのは、大いに褒めるべきでしょうね。
なによりもスペインがこの映画を製作したのには驚きました。
なぜなら、キリスト教のもっとも保守的な伝統を誇る国であり、かつ、マラーノと呼ばれたユダヤ人を迫害、国外追放した国でもあるからです。 映画でもユダヤ人への暴力がつぶさに描かれてました。宗教の異端狩りでも悪名が高いのですよ。映画では悪者扱いのキリスト教徒も大喜びのガチガチのキリスト教国家でした。
何と言っても1975年まで、あのフランコが独裁してましたし。フランコは最後のファシストですよねぇ。
スペインは第二次世界大戦を通じて、親日的だったんで、あまり悪くはいいたくはないんですけど。なにしろ欧米での日本のスパイ組織を支援してくれていたんですから。
それに、女性に対しても伝統的な生き方を強く強制するところがあるお国柄だと信じこんでました。
う〜ン、スペインの知的風土も大きく変容しているのかなあ。
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日本では、いまでに科学者ヒュパティアの紹介といったらこの本しか無い状態です。
- 作者: リン・M.オーセン,Lynn M. Osen,吉村証子,牛島道子
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数学史のなかではヒースに二箇所ほど出てきます。
- 作者: T.L.ヒース,平田寛,菊池俊彦,大沼正則
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キングスレー作「ハイペイシャ(ヒュパティア)」英語版pdf