サイエンスとサピエンス

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天津の爆発事故とエコシティ・プロジェクト

 天津は世界で第5位の巨大な港湾都市だ。中国政府の鳴り物入りの巨大都市再開発プロジェクトが順調に動いていたはずの場所だ。
 少なくとも天津市濱海区で起きた有毒性物質を含む巨大事故の当日までの話しだが。
「天津エコシティ」計画は世界も注目する省エネ、節水、脱カーボンを推進するためのインフラなどを含む先進的なスマートシティ実現を目指すはずであった。
 2009年より開発を進めているエコシティ計画は、今回の爆発事故で大きな影響、ほぼダメージと言っても過言ではない、を被るだろうとされている。日本の大手企業も参加している。
 建築の総面積1440万平方キロ、居住人口35万を目標としたビッグプロジェクトは2020年までに達成を掲げていた。

 天津市の地図で赤に星が爆発地点、赤丸8箇所が再開発場所だ。港湾部の倉庫で爆発がおき、無残なクレーター池ができている。
 あの穴は大友克洋の『AKIRA』第一巻のシーンを地でいく有り様だ。

 ここで思い出すことがある。
 2001年9月に起きたニューヨークのテロによる貿易センタービル崩落事故はあまり報道されていない後遺症を残した。
 アスベスト、水銀やベンゼン、鉛、ダイオキシンなど最も毒性の強い物質やPM2.5の広範囲な拡散だった。そのシンボルでもあった「ダスト・レディ」は2015年8月にガンで死去している。この「フォールアウト」は天津事故でも発生しているはずだ。しかし、そういった公的発表はなにもない。
 2011年の中国の新幹線事故(温州市鉄道衝突脱線事故)でもあからさまに示された情報の隠蔽体質はここでも再度、繰り返されることになろう。

 市民の大規模居住を計画しているその場所に爆発性の危険物質を貯蔵する倉庫を置くという、そのあたりが都市開発を食い物にしている官僚の存在を浮き彫りにしている。天津は温家宝前首相の故郷であった事実からも前政権の金権政治の腐敗臭が感じられる。
 大体、マスコミなど体制批判勢力が発達した日本ですら巨大プロジェクトには腐敗がつきものだった。親方日の丸の官僚と長期自民党政権汚職を連発してくれたものだった。
 かつての巨大プロジェクトであった関西空港の開発では権力をかさにきた汚職事件が起きている。一党独裁の政財癒着構造でそうした安全面の法制度の無効化を進行させる腐敗が起きないわけがない。日本の汚職などよりはるかに巨大な規模で癒着と腐敗は起きていて当然であろう。
 そのような国家の巨大プロジェクトがどれほど信頼できるものか、それは戦後の日本の汚職の歴史を知っているものなら、誰だって眉をしかめて首を横にふるしかないのだ。
 東洋型の官主導国家の陥る最大の隘路に中国ははまりこんでいるのだと断言しても差し支えないだろう。


巨大事故の時代 (叢書 死の文化)

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 高木仁三郎のような鋭利な批判を行うことすらも許さない社会に高度なテクノロジーをほしいままにさせるというのはいかがなものか。