サイエンスとサピエンス

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伝説の原子論者モコス

 古代ギリシアイオニア学派は事物の始原(アルケー)としての自然哲学を開始した。
諸子百家が沸いて出たようにその始原は諸説紛々であったが、ハイデガーが申立てしたように存在の棲家は古代の自然哲学者の言説にあったようだ。
 原子論(アトミズム)はレウキッポス(ミレトス出身ともエレアともアブデラとも云われる)がその創設者であることになっている。そのきっかけはエレアのパルメニデスの存在に関する主張だとアリストテレスが指摘している。多くの哲学史家もそれを踏襲しているようだ。

 しかしながら、それと異なる系列の伝承が残る。ストア学派のポセイドニオスやセクストス・エンペイリコス、ディオゲネス・ラエルティオスなどが伝える不思議な断片である。
 「原子論はトロイア時代以前に生まれたシドン人モコスのものだ」
 地理学者ストラボンの引用するポセイドニオスの断片だ。シドンとはフェニキアのことである。つまり、アルファベットの源泉となった文字を生み出した海洋民族が原子論の始まりに貢献していたようなのだ。
 日本語Webではモコスというと肥後の気質を指すのだが、ここは人名であることは言うまでもない。あいにくと誰もモコスに言及していないのだろう。やれやれ〜、誰もしんじてくれないかな。

【参考図書】
 下記の114ページを参照のこと。

初期ギリシア自然哲学者断片集〈3〉 (ちくま学芸文庫)

初期ギリシア自然哲学者断片集〈3〉 (ちくま学芸文庫)