サイエンスとサピエンス

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樹木 vs. キノコ(白色腐朽菌)

 樹木の本質とも呼ばれる「木質」の重要な成分はリグニンという化学物質です。樹木は2.5億年前に暗中模索のあげくリグニンを探り当てて、その御蔭で重力や大風に抗して直立できる構造材料を獲得したということです。

 高分子のフェノール性化合物であるリグニンは芳香族炭化水素が高度に結合した物質であり、人類の科学力でも完全にその機能や成り立ちを解明しきれていないといいます。お茶の成分であるポリフェノールはリグニンの分解されてできる物質の一種だといいます。
 これは人体に関しての影響なのですが、ポリフェノールが菌類抑制に有効なのも、菌の対抗物質として植物が造型したからかもしれませんねえ。

 リグニンを合成するために樹木は並々ならぬエネルギーを費やしてます。その見返りは太陽光です。昆虫など多くの他種にとってもリグニンは強固な耐性を持ちます。これは細菌類に対しても強力なバリアとなります。

 実際にはリグニンを分解しそこから養分を吸収できる生物種はキノコ、そのなかの白色腐朽菌だけであります。
 その仲間にはナメコ、エノキタケ、ヒラタケ、シイタケ、スギヒラタケ、マイタケと食材としても親密なキノコが名を連ねています。
 キノコの見かけは子実体であり、その本体は土の中や植物の中に張り巡らされた菌糸なのです。強力な分解酵素で菌糸は養分をトコトン吸い上げているのですな。

 それらのキノコはリグニン分解酵素を進化過程で獲得し、それまでに朽ちることなく沈殿していた巨木の山を養分に変えていきました。石炭紀を収束させたのは白色腐朽菌なのだそうです。森の掃除屋として欠かせない存在なわけです。石炭紀までは分解者がいなかったので、樹木の死骸が堆積埋没し石炭の材料となったわけですね。

 実に根の深い話だと思いませんか。


【参考資料】

菌類専門家による一般向け啓発書として良い出来

ふしぎな生きものカビ・キノコ―菌学入門

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コンパクトで密度のあるオススメ本