世界の言語は6000とも7000とも云われる。しかしながら、文字の種類は100にも満たない。
つまりは、自前の言語に合わせた文字をもつ民族?あるいは言語集団というのは少ない。
主要な文字圏は8つに分かたれる。
ラテン文字圏。これには欧米の大半の言語が含まれる。キリル(スラブ)文字圏はロシアが中心だ。アラビア文字圏は中東。インド文字は14種ほどタイプがあるそうだがインド亜大陸で使われる。
中国文字圏は漢字。それを受けて独自色を出した日本文字圏。独立性が高いハングル文字圏、それにモンゴル文字圏である。ちなみにハングル文字は唯一起源がはっきりしている文字である。
アフリカ大陸はエジプトでヒエログリフを生んだがその後継者はいなかった。また、アメリカ大陸もマヤ・アステカ文字を持ったがスペインの伴天連たちにに焼き払われた。
これらの8つの文字圏は現在の文字の使用状況であったが、その由来はどうか。
それを示すのが文字の系統樹である。
文字の系統樹は言語の系統樹よりは精確さが高い。なぜなら、文字史料がその材料だから。話される言葉は変化の痕跡があいまいなところがある。文字は違う。
その系統樹を図示しよう。ジョルジュ・ジャンの『文字の歴史』の資料編を簡略化したものだ。
現代世界ではアルファベットが圧倒的な存在感をもつ。ユーラシア大陸の東側の漢字圏は少数派である。ベトナムも漢字を20世紀に捨ててしまった。
とりわけ面白いのは語族としてウラル=アルタイ語族に入るモンゴル語、ハングル語、日本語が異なる文字圏に分断されていることであろう。
また、つぎのことも重要な事実だ。自前の言語で学問(とくに自然科学や技術)ができる文化圏は自前の文字をもっている。英語、ドイツ語、フランス語、ロシア語などアルファベット文字圏(ラテン文字系)は言うまでもあるまい。ついでながら、アラビア語系が今なお自然科学研究が可能かどうかはわからないが、過去に於いては数学や天文学で世界をリードしていた。インド文字圏は英語で研究する状況だろう。
というわけでアルファベット文字圏外で自然科学・技術の研究ができる語族としては中国と韓国、それに日本だけであろうと想定されるのだ。東南アジアはとうに諦めて英語で学問しているはずだ。
この3国だけが自国語と自前の文字で研究できるというのは伝統(翻訳や出版の層の厚さ)の賜物であろう。
【参考文献】
本テーマにちょうどいい本があった。江戸時代の翻訳の伝統からの日本での近代科学の発達が取り上げられている。
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